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□紅い宝石
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side バン

急に熱が出て、すごくしんどくなって、倒れて、目を覚ましたらもう何にも見えなくなってた。母さんが泣きながら説明してくれたけど、なにそれ、もう見えないの?俺の目。

「もう…何も見えないの…?」

「ごめんね…ごめんねバン…!」

こんな真っ暗な世界でどうやって生活していけって言うんだ。もう何も、LBXだって、カズだってアミだって、大好きなジンだって、もう一生見れないなんて。悔しくて怖くて母さんと一緒に泣いた。

「バン…ごめんね」

「もう、いいよ…」

「母さん…トイレ行ってくる」

「うん」

きっとトイレでまた泣くんだろう。息子の前ではと遠慮しているから。母さんの足音が遠ざかって、完全に俺の周りから気配が消えた。そのとき俺の大好きな声が聞こえた。

「バンくん!」

母さんがトイレにいってすぐだった。俺の大好きな声が聞こえたのは。ジン、ジンどこにいるの?目をあわせたい。ジンの宝石みたいなその赤い目に自分の瞳を映したい。でもそれはかなわなくって。いきなり触れた手にびっくりしながら手さぐりでジンを抱きしめる。安心する匂い。走ったのか少し息が乱れて汗をかいている。それになんだか痩せた気がする。体温が冷たい。ジン。

「バンくん、好きだ…好きだ!」

「ジン…俺も、俺も好き!でも…もう見えないんだジンの事…」

「それでも愛してる…バンくんは僕の目が見えなくなっても愛してくれるかい?」

もし、自分じゃなくてジンの目が見えなくなったら…。そんなの嫌いになるわけがない。ジンを一生守るって決めたんだ。俺が…。今はもう無理かもしれないけど…。

「当たり前だよ」

「だろう?だから僕も…それに…バンくん、君の目は大丈夫」

「大丈夫…?どうしてそんなこと言えるの?」

「大丈夫だからだよ…必ず見えるようになるから」

「ジン…ッ!」

その時どうしようもなく悪い気がした。ジンは俺に目が見えるようになるって言ってくれてるのに、なぜか。すごく嫌な予感。まるで大切なものを失うかのような…そんな予感。

「じゃあね…バンくん………好きだよ」

「ジン!ジン!待って!」

「バンくん…っさよなら」

そう言って足音がして、完全にジンの気配はなくなった。何か悪い気がしたのだが…そんなとき母さんが入ってきて、優しく抱きしめてくれた。どんな姿になってもあなたは私の息子よ。なんて言ってくれて、悪い予感のことを忘れて泣いた。伏せられたまぶたから涙が伝う感覚だけを感じて。
そして1週間。やっぱりまだ光のない生活には慣れない。何度もベッドから落ちたし、何度も飲み物をこぼした。ほかにも不便なことはたくさんあった。それでも母さんもいるし、ジンだって俺を好きでいると言ってくれた。それさえあれば俺は大丈夫だし、何とかこの状況をいい方向に持っていこうと必死だった。

そんな時だった。母さんが俺に言った。眼球の移植手術を受けれるそうよ…。今から手術だから眠りましょうね…と。それって…また目が見えるようになるかもしれないってこと?ジンや母さんの顔も見れるってこと?俺は一言ありがとうと言うと点滴を打ってもらって眠った。昔は目の手術をおきた状況でやるなんて嘘みたいだ。でも…さっき母さんの声が震えていたのはなぜだろう。嬉し泣きだったらいいんだけど。



いつものように目を覚ました。目がずきりと痛んだが瞼は上がっているし、天井の模様を認識できた。母さんは俺が目覚めたことに気付くとすぐに先生を呼びに行った。そのあと先生が来ていろいろ診察をされて成功だと言われた。その時は嬉しくて嬉しくて涙が出た。最近泣いてばっかだ俺…。



「ねぇ、母さん!ジンは?ジンに会いたい!」

あれから数日が経った。目が痛まなくなれば退院と言われその日に胸を躍らせながら、体は元気な俺は暇を持て余していた。そんなときジンに無性に会いたくなって、ジンに目が見えるようになったことを言いたくて、ジンの顔が見たくて、ジンの赤い瞳に俺の目を映したくて。

「ああ…ジンくんは…今ちょっとはなせない用事らしくて」

「会えないの?じゃあ…鏡見せてよ…そんな目になったか見てみたい!」

「…っダメよ!」

母さんが声を張り上げたから俺はぎょっとする。なんで…?と恐る恐る聞くと母さんはハッと自分が声を張り上げていた事に気付いた。何か…見てはいけないことでもあるんだろうか。そういえば部屋に鏡はないし、ガラスもない。CCMもどこかに行ってしまっている。

「とにかく…今はまだ傷口があるから見ない方がいいわ…」

「うん…」

母さんは…何か隠している…。一体何なんだろう…。



それからまた時間が経った。俺はもちろん退院して、家に戻っていた。でも相変わらず俺の新しい目は見たことがないし、ジンも用事と言ったきり俺の前に姿を見せたこともない。それに未だにCCMを触っていない。父さんは家に帰ってきてくれたけど、母さんと話した次の日はすごく青い顔をしていた。一体二人は何を知っているんだろう。





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