TEXT4

□特別なのは
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角を曲がろうとしてやめた。なんだか俺が登場しにくい話をヒロとジンがしてたから。まぁでもここで聞くのも悪くはないかな。なんて。壁にもたれかかって二人の話に耳を集中させる。

「ジンさん!一体ジンさんとバンさんはどんな関係なんですか!」

思わず吹き出しそうになった。いきなりそれをジンに聞くか…。確かに俺とジンは付き合ってる。告白も俺からした。ここではばれないようにとお互い距離を取ったりしてたけど…鋭いなぁ…変なところに感づくんだからヒロは。

「べ、別にバンくんはよきライバルであって、友達だ」

ジンが動揺してるのが声からわかる。別に言っちゃってもいいけど、今までの努力が水の泡になってしまう。ジンが必死に関係を包み隠そうと説明するが、なんとなくしか的を射た説明ができていない。これじゃあヒロは怪しむだけだ。

「でもジンさんはバンさんだけ、くん付けじゃないですか」

「えぇ?」

そう言えばそうだ。俺にくん付けするのはジンを除けばユウヤくらいかな。俺は呼び捨てがいいんだけどなぁ…。だってジン、ほかのみんなは呼び捨てなのに俺だけって。なんだかなぁ…これで俺だけ呼び捨てなら全然いいんだけど。
チラッと二人の方を覗くとヒロがジンを壁に追い詰めて話をしていた。ジン可哀想に…でもちょっとこの光景は笑ってしまいそうだ。声を押さえて笑いを我慢する。

「それは…バンくんには色々恩があるから…」

「ジンさんはバンさんのことが好きなんですか!?」

ついにヒロが聞いた。これは…俺も聞きたいな…。ジンはなんて言うんだろう。好きって言ってくれるかな。でもやっぱりヒロの前だし弁解するかな。俺たちにとってヒロは大事な後輩だし、仲間同士の恋愛なんて知ってもらいたくはない。まるでお母さんのようなセリフだけど、ランも含めヒロが好きだからそう思うのは間違ってないはず。

「…でも、バンくんのことをバンさんと呼ぶのはヒロだけだ」

それもそうだなぁ…。ヒロはみんなのこともバンさんって呼ぶけど、バンさんなんて呼ばれたのはヒロが初めてだ。別に俺はヒロにも呼び捨てしてもらって構わないんだけどな。ランだって俺のことバンって呼ぶし。そんなに呼び方にこだわったことないからわからないけど。

「それはみなさんにさん付けしてるからです!」

「そ、そうか…」

ジンがこんなにたじたじなのは初めてだ。何とか言葉を選んでものを言おうと必死で、滑稽で、声を出さずに腹を抱えた。そうしたらヒロがいきなりすごいことを言い始めた。

「僕は、知ってるんです!バンさんとジンさんが付き合ってる事!なんで隠すんですか!?」

「「!?」」

ええええ!?ヒロ、知ってたの?じゃあ今まで隠してきた意味って…。さっきジンが包み隠そうとしてたのも俺がジンから距離を取ったのもすべて無駄…だったなんて。俺もヒロが知ってることにっ動揺が隠せないけど、ちらりとジンを見ると俺よりも動揺しているようだ。口元に手を当てて口をつぐんでしまっている。顔は真っ青とも真っ赤とも言い難い。

「なら…なんで、こんなこと…」

「僕は、バンさんが好きなんです!!」

廊下にヒロの声が響いた。俺がいるってこと、知らないで…。そんなことを考えながらも顔に熱が集まっていくのが分かった。ヒロが俺をそんな風に見てただなんて…。なんとなく、俺と接するときだけヒロの顔が赤い。とは思っていた。でも、まさか、こんなところ。廊下だし、ジンの前で堂々と発表するとは…。しかも俺なんかを。ヒロに好きって言われたことがなんだか恥ずかしくて、むずがゆくて、壁にもたれたままずるずると腰を下ろした。
顔を手で覆う。本当にヒロが俺のことを好きだったなんて。なんだか違う気もするけど。はぁ、俺この後どんな顔してヒロに会えばいいんだろう。ジンにもなんて言おう…。

「だから、ジンさんを超えたいんです!ジンさんを超えればバンさんもこっちを向いてくれるかもしれないって…」

「ヒロ…」

本当に修羅場で、もう俺にはどうしようもできない。不安に心臓がどきどきと音を立てる。廊下はシンッと静まり返ってしまって、この心音が聞こえてしまうんじゃないかと余計に不安になった。面白半分で立ち聞きなんてするんじゃなかった。

「で、も…」

最初にこの沈黙を破ったのはジンだった。声が若干震えている。きっとジン自身どうしたらいいのかわからないんだろう。でもそれは俺にもわからないし、ヒロだってわかってないと思う。それにヒロはジンに俺を諦めてもらおうとさっきのことを言ったんじゃないと思うし、なんだか、複雑な気分だ。

「ヒロには…Σオービスもあるし、バンくんとは師弟関係だろう?いようと思えばいつでもそばに入れるじゃないか」

あ、もしかして、ジン、本当は一緒に居たかったのかな、声色からそんなことを考える。もし、ばれないように!と距離を置いていたことがジンにとって寂しかったら俺、何にもジンの事わかってなかったんだ。ヒロのことも考えずジンのこともわからず俺は一体何をやってたのか…。

「それは…嫉妬ですか?」

「かもしれない。やっぱ僕はバンくんが好きだし尊敬してるから」

自分に落胆していたら、ジンからの不意打ちで、目を白黒させながら、さらに早まった鼓動を隠そうと胸を押さえる。ジンが…俺に好きって言ってくれた。やっぱり俺が好きなのはジンだ。自分からジンを好きだと言っておいて心が揺らぐ自分が情けない。そんなことに悶々としているとヒロがまた声を上げた。

「僕もバンさんを見てるとドキドキしますし、見ての通り尊敬だってしてます。いくら1年のハンデがあろうと負けません!絶対にジンさんからバンさんを奪って見せます!」

「怖いな……でも、いいな。ヒロは…自分の気持ちを素直に言えて…」

「ジンさん…?」

「いや、いいんだ…」

本当に…二人とも俺が今すぐ出て行ったらどんな反応するだろう…。そんなことはしないけど…。なんだかヒロの好き。は勘違いしてそうだけど…尊敬と好きを間違えてないか…?まぁ、いいけど…とりあえず今回の立ち聞きは寿命が縮んだよ…。とりあえず部屋に戻って落ち着こうと腰を上げた時にCCMに着信が。う、そ…でしょ?

「バンくん…?」

「バンさん!?」

「や、やぁ…」

いつから聞いてたんだ(聞いてたんですか)!!と二人に追及され今来たところと嘘をつく。後でユウヤ、覚えてろ!!



fin.

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