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□音楽室の七不思議
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学校の音楽室。学校の近くで鉢合わせした俺たちは、夏休み中に取りに来ないといけない課題を取りに行こうと一緒に音楽室に入った。
課題を手にした俺達だが、なぜが音楽室で立ち止まって辺りを見渡す。大きな黒いグランドピアノが黒板の近くに置かれて、机が並べられているだけのなんの変哲もない音楽室。しかし、中学生がその楽器に気引かれるのはごく自然な光景だと思う。俺は先生がいないことを理由にピアノに触った。
それでも男子中学生が引けるものといえば大抵はこれなんではないだろうか。猫ふんじゃった。をピアノで弾いてみて自分の音楽センスに落胆した。俺ってなんでこんな簡単なものしか弾けないんだろうと素直に思ったのだ。別にピアノを習いたいってわけじゃない。ただもう少し弾けたらなぁなんて。隣で楽譜を選ぶジンを見て溜息を吐く。ジンが選んでいるのはショパンやらベートーベンやら小難しい曲ばかり。俺が弾いたらきっと指が取れてしまうだろう。
「ジンー…なんでそんなに弾けるの?」
「お祖父様に習い事としてやらされていたからな…」
「じゃあ俺に教えてよ」
「ええ?」
そこから今までジンとマンツーマンでピアノの特訓だ。猫ふんじゃったレベルの俺にジンはまずメヌエットを。そこからアラベスクや簡単な曲を弾かせていって(といっても全く弾けないのだけど)気づけばもう日も暮れかけていた。
「もう帰る?」
「そうしようか」
楽譜をもとの位置にしまって、カバンを持ってドアの前に立った。忘れ物がないか振り返ってドアノブに手をかけ引っ張る。……開かない。ドアが重いのかともう一度引っ張るが一向に開く気配はない。うんともすんとも言わないのだ。
「バンくん…?」
「あ…あのさ…ドアあかない…」
え?といってジンも確認するがあかない。教頭先生が帰るときに俺たちに気付かずオートロックのボタンでも押したかな…。時代が進んで職員室からボタン一つで鍵を閉めれるのはすごくいいことだけど、こうやって人が取り残されてることに気付かないんだよなぁ…監視カメラじゃ気づかないってこともあるんだ…というか音楽室の監視カメラは作動してないって噂をよく聞くし…。とりあえずこうなった時用の電話を使って職員室に電話をかける。しかし何度かけても誰も出ない。これはもう諦めるしかないのか…夜はもしも襲撃があってはいけないとCCMの電波が遮断されるようになっている。これじゃあ外との連絡手段もない。
「…人晩ここで過ごすしかないな…」
「ごめんねジン…俺が教えてなんていったから!」
「いや、いいんだ…僕も時間を忘れていた」
それから1時間が経過した。日は完全に落ち切ってしまって音楽室の電気をつけた。夏だからクーラーも付ける。明日怒られた時にはちゃんと言い訳をしよう…。そこまでは良かったもののこの部屋にはトイレもなければ蛇口もない。水が一滴も出ない環境だ。それに俺たち自身食べ物も何もない。明日まで飲まず食わず…大丈夫かな…。
「お腹すいたね…」
「ああ…水だけでもあるといいんだが…」
そう言って周りを見渡す。あれはいいのだろうか…ジンと目を合わせる。俺たちの目線の先にあったのは触るな殺すと書いてある音楽の先生の小さな冷蔵庫だ。ちょうど夕飯時でお腹もすいていた俺たちは迷った挙句その冷蔵庫を開けた。冷たい冷気が漏れる。冷蔵庫の中を見てみると、ペットボトルに入った飲み物が5本とプリンやケーキなどといったお菓子が大量に入っていた。
「先生…何隠してんだよ…」
「どうする?」
「とりあえずもらおう…じゃないと俺たちが持たないよ…」
ジンと俺に1本ずつ飲み物を出して、箱に入ったショートケーキを2つ取り出した。さっさと食べて証拠隠滅を図ろうと俺たちは急いでそれを口にした。今日は汗をかいたけどシャワーはお預けか…肌に言い張りついたシャツを見てふと思う。ジンは夏だというのにフォーマルな恰好をしている。暑くないのかな…。
「バンくん…?」
じっと見ていた俺にジンが話しかける。ハッと我に戻ってジンに何か話を振る。
そう。話を振ったんだ。それがなんだったかはもう忘れちゃったけど。その話の降り方がまずかったらしく、ジンは服を脱いだ。バンくんならいいよ…と俺に抱きついてきたから混乱しながらも、ああ…俺、ジンを抱けるんだと思って俺も服を脱いでジンに覆いかぶさるようにして押し倒した。音楽室のカーペットが少しざらざらする。
「…あ!…ぁ、っあ!バン…く、」
「ジン、気持ちいい…?」
「ふぁ!ん…気持ち…い…っぁあ!」
ぱしんぱしんと肌のぶつかり合う音が聞こえてまた欲情する。下から聞こえるジンの甘ったるい声と、少しきつめの締め付けが俺をどんどん溺れさせていった。
「ん、キス…した…ぃ」
「いい」
よ。そう言おうと思った瞬間子供の声が聞こえた。まさか幽霊!?そう思ったけどそれは肝試しに来た生徒らしい。よく学校に入れたものだと感心したが、俺たちは今見せられるような状態じゃない。急いでジンから俺を引き抜くと電気を消した。
「ッ…バン…く…?」
「誰か来た…続きする…?」
「でも…僕…もう」
ぴくぴくとジンが身体をゆする。ああそうか。もう限界か。最後のトドメがなくなってしまったからイクにイケないのか…これは辛いな…。
「声出しちゃだめだよ…?」
廊下に数人の足跡が響く。しかし俺たちはそれにかまわずことを進める。絶頂に近づくにつれジンは声が洩れた。そして生徒が音楽室の前を通った時ジンは絶頂を迎えた。
「ぁ、あ、あああああああっ!あ…ぅあ…」
びゅくびゅくっと自分のお腹の上にその液をこぼす。ジンは放心状態のままうっとりとこっちを見つめている。ところで生徒達はどうなっただろうかと耳をこらしてみる。
「な、なぁ…今人の叫び声聞こえなかった?」
「え?そうか?」
「ああああって!お前も聞こえたの?」
「ああ!」
「聞こえたか?」
「いや…なにも」
ドアの近くにいたやつには少しジンの声が聞こえたようだ。ざわざわと話した後、本当に聞こえてたらヤバいだろ。と逃げ帰っていった。変な噂が流れないといいけど…それより音楽室って防音機能すごいんだなあ…ジンがあれだけ叫んでも聞こえるか聞こえないかの瀬戸際だから…これはもう1回くらいできるんじゃないかな…。
「ジン、」
「バン…くん…」
「もう一回やろう…?」
「…いいよ」
そのまま空が明るくなるまで続けて、眠ってしまったジンの後処理をし終わったのは5時45分。6時になったらCCMも使えるだろう。もう少し眠らせてあげたいけど、ジンを起こして一緒に6時を迎える。そうしたら一斉にお互いのCCMが鳴り続けていて。異様な光景を目にした気分だ。俺たちは一件一件に丁寧に謝罪の電話を入れて最後の返事をしたころにはもう鍵は開いていた。
「ジン…これからどうする?」
「とりあえず家に帰るよ…バンくんもうちでシャワーを浴びていくかい?」
「じゃあお言葉に甘えて…」
じいやさんの運転してきた車に乗って俺たちはジンの家に向かった。
夏休み明け、音楽室に悲鳴が聞こえたという七不思議がはやったのは言うまでもない。そのたびに赤くなるジンを見て実はちょっと優越感に浸ってみたりするのは本人には言えないね。
fin.