TEXT4

□どうして
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Another


何をしても、どうしても死ねなくて。自分に嫌気がさした。どうしようもなく。

「痛い…」

手首を切っても血が流れるだけ、血が入れ替わっても体に染みついた汚れは取れないのに。わかってて切る。ただ痛いだけなのにバカみたいだ。ああまた迷惑かけてる。わかってて繰り返す僕はもう狂っているのか。これじゃあヒロにまた嫌われてしまう。悪循環とはわかっていてもやめられない。なんだか不安になる…やめたいのに。もうきっとヒロには好きになってもらえないから死のう。死ねばヒロもバンくんも僕から解放される。それが一番いい。手首から流れ続ける自分の血を眺めながら意識が途切れるまでそれを考え続けた。



「か、ぅ…あ…はぁっ!はぁっ!ゲホッゲホッ


また失敗した。どうにか自分で首を絞めてみたけど、苦しくなったら手を離してしまう。手首を切っても死ねないならと首を絞めてみたけどやっぱり駄目だ。本当に弱いな…僕は。一体どうやったら、いなくなれるだろう。自分でやるのがだめなら誰かに殺してもらおう。そうだなぁ…バンくんに頼もう。いつでも頼って。と、この前言ってくれたし、自殺したように見せかければバンくんに罪はないと思うし。

「もしもしバンくん?ねぇ来てくれないか?」

そう頼めばバンくんはすぐ来てくれた。どうしたの?と若干の憐れみを含んだ眼をして。僕は予定通りバンくんに夜抜け出して買ってきたナイフを渡す。バンくんは一瞬刺されるのかと思ったのかビクッと身構えたが僕がそれ以上近づかないのを見てバンくんは僕を見直した。

「ジン…?」

「バンくんこれ持って」

「な、なんで?」

「いいから、お願い…」

そういえばバンくんは恐る恐るそのナイフを握った。ここで僕が悲鳴を上げれば誰かが来てバンくんは取り押さえるんだろうな…そんなことはしないけど。バンくんはナイフを握りしめたまま固まってしまっているから僕がこのままバンくんに抱きつけばこのナイフが僕のお腹に刺さるわけなんだけど。

「ジンなんでナイフなんか…」

「それで僕を殺して」

「なんで!?なに言ってるの!?」

「お願い、僕一人じゃ死ねないんだ。いつでも頼ってと言ったじゃないか」

「でも…!ジン、死ななくていいんだよ?」

なんで?僕が死ねば君も、ヒロだって僕から解放されるんだよ?バンくん、手が震えてるよ?大丈夫。怖くないよ。全部僕がやったことにしていいんだから。ねぇお願い僕を殺して…!!

「ジン、死なないで、俺はジンが必要なんだ」

ほら、ほらバンくん僕に縛られてる!そういうのが嫌なんだ。僕は汚いんだよ?本当は今この瞬間も一緒に居てもらうのが申し訳ないくらい。だからさ、僕を殺せば君も解放されるんだから。ねぇ!!

「お願いバンくん。このままじゃあ僕、もっと酷いことしゃうから…今君に殺されたいんだ…」

「ジン………」

バンくんが僕のお腹にナイフを突き立てたがたがたと手が震えている。バンくんの目を見つめると恐怖におびえて色が真っ暗になってしまっている。バンくん大丈夫だって。

「バンくん…早く、お願い」

そういえば、カランカラーンと乾いた音が病室に響いた。一瞬理解できなくてその音のした方に目を向ける。そこにはナイフが落ちていた。なんで?なんで落ちてるの。今バンくんが持ってたじゃないか。

「ジン、ジン…ごめん、俺には、俺には無理だよ…!」

ジンを殺すことなんてできない!ごめんジン!なんて泣きながらバンくんが謝ってくるけど、そんなのいいよ。できないならもういい。やっぱり自分で死ぬよ。

「もういいよ…変なこと言ってすまない」

「ジン…!ありがとうわかってくれたんだ…明日も来るからさ、明日…必ず会おうね」

「うん」

そう言って笑顔でバンくんを送り出す。明日ね。ちょっとみんなの前に行ってみようかな。演技なら大丈夫かも知れない。みんなに最後だし会っておかないと。

そのまま翌日になって僕はいつも来ていた服に袖を通す。少し痩せてしまったから若干服の中で泳いでいるようにも見えなくないがその上にいつものジャケットを羽織る。なんだかこれじゃあ寒いけどまぁいいだろう。あ、これじゃあ手首の傷が丸見えだ。

「じっ…ジン!!?」

「やぁラン…みんなはどこにいる?」

「帰ってきてたの?みんなはこっち!」

もう大丈夫なの?とか、なんであんなことしたの?みんな心配してたんだよ?とかいろいろランに聞かれたがそれをなんとなくかわしていく。そうしていればいつの間にかみんながいるらしい部屋についていた。

「やぁみんな」

「ジン!?」

「ジンくん!?」

あたりを見渡せばヒロはいない。ああやっぱり僕には会ってくれなかったか。いいんだと思うこれで。半端な期待をさせられても僕が辛いだけだ。早くみんなを解放してあげなくちゃいけないのに。はぁ…今日はお別れだけ。みんなと少し話をしたら帰ろう。

「ジン…昨日は…」

「いいんだ、僕の方こそすまない」

「もう、いいのか?」

「ああ」

嘘。もうみんなといるだけで気が狂いそうだ。みんながきれいに見えて、僕だけが汚く見える。もとはといえばバンくんに僕が浮気したのが悪いんだ。自業自得か…。

「ジン!?」

そんな考えは次の甲高い声によってかき消された。頭が痛い。

「ジェシカ…久しぶり」

「大丈夫なの?痩せたわわねー…もう来るなら言ってよ!もっとちゃんとした料理作ったのに!」

「いや、いいんだ」

ジンもご飯食べるでしょう?今すぐ作るわ!とジェシカが走っていった。バンくんと目配せしてすこし口角を釣り上げた。あれ…前はバンくんの目を見るだけで大体言いたいことが分かったんだけど…今はもう全然わからないや。今何を思っているんだろうバンくんは…。憐み?同情?それとも汚い?なんにしろよくは思ってないんじゃないかな。まぁどうせ…いいけど。

「あれヒロは?」

「さっき出かけるって言ってたよ?」

「タイミング悪い…」

「いいさ、別に」

どうせヒロには僕に会う気もないんだから。僕も会いたくない。きっと縋り付いてしまう。しばらくみんなと話す。そうしたら料理の匂いがた漂ってきた。気持ち悪い。でもここで断るのも気が引ける。今日は最後のお別れだから。

「さ、できたわよ…ヒロの分は残してあるから冷めないうちに食べちゃって」

「いただきまーす!」

「ジェシカくん、これは?」

「それはセロリよ」

みんなの楽しい会話が飛び交うが、いつも静かな部屋で過ごしていた僕にはうるさくて頭がずきずきと痛んだ。ジェシカに勧められて食事に手を伸ばすが口に入れた瞬間吐きそうになる。前までは普通に食べれていたのに…。

「ジン?」

「いや、なんでもない」

とりあえず噛み砕いて飲み込む。味はもう感じない。下がビリビリとしびれているようだ。みんなが食事を終えたころに僕は立ち上がった。もう我慢できそうにもない。みんなに笑顔でお礼を言って、今日の内は帰るという趣旨を伝えた。みんなも納得してくれたし、僕は足早に医務室に戻った。その途中にトイレがあったからそこで食べた物全部を吐いた。どうにも吐き気は治まらなくて、胃の中が空っぽになってもなんだか吐き気がおさまらなかった。それでもここにずっといるわけにもいかないからベッドに転がっていたらいつの間にか眠っていた。

そして翌日。ついにこの日がやってきた遺書は書いていない。迷惑をかけ続けてきて死んでからもお願いをする気なんてさらさらない。CCMに打ってもよかったけどきっと僕のCCMなんてこの前投げた時に壊れてしまっただろうし。もういい。どうせ僕の死なんて誰も見向き見しないだろう。
屋上に上がるドアを開けるとすこし強い風が吹き抜けた。伸びてしまった前髪が風に揺れる。こんな日に限って空は青々としている。僕は柵を乗り越えて下を見下ろす。こんな高さで死ねるんだろうか。人間は意外と丈夫だって聞いたことがある。もしも死ねなかったら車に撥ねられればいい事なんだけど。

「さよなら」

パッとそこから飛び降りた瞬間ジンさん!!!というヒロの声がした。最後に聞けたのがヒロの声だなんて幸せだ。地面とぶつかる時僕は心からの安堵の笑みを洩らした。



fin.
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