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□ブラックコーヒーに
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ジンはブラックコーヒーが好きだ。ミルクも砂糖も落とさないただ苦いだけのコーヒーが。俺はまだ子供だし、年相応に甘いジュースが好きだったりする。
「ジン美味しいの?」
「ああ…飲むかい?」
「え、いや…いいよ」
ジンと間接キスはしたかったけど、俺にはまだコーヒーは苦くて飲めないや。砂糖とミルクを落としてくれたら別だけどね。俺はじいやさんに出してもらったオレンジジュースを飲みながらそう思った。
「バンくん、今日は何をする?」
今日はジンの家に俺が泊まらせてもらった。カバンを置いて、とりあえず落ち着こうと飲み物を出してもらって、今。俺はただ二人でいる時間がほしかっただけだったけど、よく考えれば暇になってしまうか。
「そうだなぁー…」
「お菓子でも作るかい?」
「え?」
「さっきじいやが暇だったらキッチンに来いと言っていたから」
それなら!と言ってジンとキッチンに向かった。キッチンの扉を開けるとじいやさんは俺たちを手招きして呼んでくれた。近づくとチーズケーキを作りますよ。と言って俺にじいやさんが手に持ってかき混ぜていたへらを渡した。
「かき混ぜてください」
「はい!」
「坊ちゃまはこっちでジャムを作りましょう」
「ああ」
じいやさんの的確な指示でケーキ作りはてきぱきと進んでいった。途中俺の失敗で砂糖が多めになってしまったが…まぁ、少しくらい甘くてもいいかな…なんて。
「ではあとはやっておきますね」
「ああ頼む」
「あと、服はかごに入れておいてください。ぼっちゃま服は貸してあげてください」
「え?あ、ああ」
なぜそんなこと。とお互いの服を見ると、ところどころに生クリームやクリームチーズがそこらについていたりしてドロドロだった。いつの間にこんなことになったんだろう…。
「バンくん、僕の服を貸すよ」
そう言ってジンはまず俺の部屋くらいあるんじゃないかってくらい大きなクローゼットの前に俺を連れてきた。思わず、わぁ…と声が洩れた。その間にもジンは俺に会う服を見繕ってくれて俺の前に何枚か置いた。
「どれか着てくれ」
「あ、じゃあこれ」
どれも動きにくそうだったけどとりあえず一番動きやすそうな服を取って着替える。わぁジンの匂いがする!いい匂い…。ジンもいつの間にか着替えてて、俺たちは服をかごに入れて、もといた部屋に戻った。
「ジンの服いい匂いする!」
「そうかな」
「うん!」
バンくんはいつも太陽の匂いがするね。なんてジンは言いながら俺の近くで鼻を鳴らした。お、俺汗臭くなかったかな…ジンに臭いって思われたりしたら嫌なんだけど…。
「やっぱり」
「ジンくすぐったい」
「そうかな?」
そこからじゃれあってそのあとまくら投げに発展したりして、LBXを使わないでもこんなに遊べるんだ。なんだか、本当に中学生を全うしているみたいで楽しかった。じゃれあいが終わった頃じいやさんがさっき作ったチーズケーキを持ってきてくれて、俺にはオレンジジュースを、ジンにはまたコーヒーを淹れてくれた。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、楽しんでいってくださいね」
そう言ってじいやさんは部屋を出て行った。ジンは俺にフォークを渡すと、コーヒーを一口飲んだ。美味しいのかな絶対苦いと思うんだけど…。
「コーヒーは、」
ジンは俺の視線がコーヒーに向かっていることに気付いて話し始めた。少し目を細めてマグカップを両手に持つジンが可愛く見えた。
「チーズケーキとよく合うはずだ…飲むかい?」
「そうだなぁ…じゃあ」
俺がチーズケーキを口に含むとジンがコーヒーを口に含んだのを見計らって口を重ね合わせた。コーヒーが流れ込んできて、さっきジンが言ってことは本当だったんだなぁ。なんて思う。
「コーヒーも、おいしいね」
「……甘い…」
砂糖をちょっと多めに入れたのも結果オーライなんじゃないかな。ジンも美味しいと言ってくれたし。俺がコーヒーを飲めるようになったのはこれからだったかな。
「ジンもう一回やろー?」
「嫌だよ」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くジン。あーもう可愛いんだから!
fin.