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□悲しい愛をあげる
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「っや!やだ!ヒロ、ダメ!嫌っ!!」

「ジンさん、いいじゃないですか」

今、私がどうしてこんなことになっているかというと、バンくんが出かけてヒロと二人きりで、いつの間にかベッドに押さえつけられていた。そして行為に移っていった。

「ぁっあっう!嫌…中は…ダメ…ヒッ…」

「イ、イク…!」

私は海道家の後継ぎとして男として育てられた。でも、もうそんなこと気にしなくていいと言われて、私は海道ジンという男の自分を捨てた。そんな私をバンくんは好きだと言ってくれて、いつまでもこの幸せが続くと思っていたのに…。

「ジンさん…これでもう…逃げられませんね」

ヒロはそう呟いて部屋を後にした。私は乱れた服のままベッドの上で呆然とただ植えつけられた恐怖と罪悪感に押しつぶされそうになって泣いた。バンくんになんて言おう。私は妊娠してしまったかもしれない。

それから何か月か経って、私は体調を崩した。まるでつわりのように。怖くて検査薬は使わなかった。もし妊娠していたら。そう考えれば考えるだけ怖くて、バンくんにも言えなくて、生むのかおろすのか、頭の中がもうごちゃごちゃでまた一人でトイレで吐いた。

「ジン、最近お腹でてきたね。何かあったの?」

「!!」

「……っえ?ジン?…何があったの?」

もう、言うしかないのだろうか。バンくんになんて思われるだろう。最低だ。恋人がいるのにほかの男に妊娠させられて。私は何もできなかった。バンくんに嫌われるだろうか。

「ヒロに………………………」






「ジン…それ…本当なの?」

「うん…ごめんなさい!何度も言おうとしたの…でも…怖くてッ」

「ちょっとヒロのところに行ってくる…」

「待って!何するつもり!?」

バンくんは複雑な、それでも傷ついたって顔をしていた。私は泣きながら謝って、バンくんを言葉ではもういいと言ってくれた。日に日に大きくなっていくお腹で、生活して、自分にできる精一杯のことをやっていたらNICSでの日々はいつの間にか終わっていた。

「ジン…これからどうするの?」

「どうするって…」

「今ならまだ間に合うよ。中絶して俺たちの子供を産もう」

「バンくん…?なに言って…」

中絶?それって私の中に宿っている命を殺すってこと?確かに無理矢理、しかも愛していない人との間にできてしまった子供。でも、私は、命の大切さを知っている。大切な家族を3人も失っているんだから、私はそれをよく知っている。だから…中絶は…。でも…。

「間に合わなくなる前にさ、ジン」

「私は産む…たとえ愛してない人との子供でも命を…」

「ジン、俺はジンとの子だけがほしいんだ」

「でも…」

「それにジンの体が持つか…まだ中学生なんだよ?」

「私たちの子供として育てればいいじゃない」

「ジン……考えは変わらないの?」

「ええ」

「ごめん…考えさせて」

そこからバンくんに自分から連絡を取ることはなかった。私はだれにも迷惑をかけないように一人で病院に行って、検査を受けて、そして……お腹の中で子供を育てた。何回か入院して体が危ないと言われた。それでも命を手放すことはできなかった。

「すいません…お腹が…い、た…」

「陣痛かしら…待ってすぐ先生を呼んでくるわ!」

まだ予定日までは1週間あった。それでもいきなりお腹が痛くなって、いよいよ耐えれなくなりそうだったから看護士さんに言った。私はまだ15歳だからかなり慎重になるみたいで、最初に病院に行った時もたくさん怒られた。それでも必死に産みたいとお願いしたし、今だって1か月前から入院させてもらえた。

「大丈夫?生まれそう?」

「痛い!ぅっぁああ」

「帝王切開の準備して」

「ぇ…?」

「大丈夫よ」

さっきからどんどん痛くなってる気がする。先生にいそれを辛うじて伝えると、ストレッチャーに乗せられた。何が始まるの?と周りを見ていたら麻酔をかがされて眠たくなった。少しの感覚がある中手術が始まった。痛い。切られてるのがわかる。縫われているのも。すごく長い時間がたった気がして、痛みがなくなった時そのまま眠ってしまった。

そうして目が覚めたとき、私は何本かの点滴を打たれていて、周りを見渡すと誰かの影があった。目を凝らす。

「ジン…目が覚めたんだ」

「バン…くん…」

「本当に産んだんだね…」

「うん…」

そこからしばらくの沈黙が流れる。それからバンくんは赤ちゃんを見に行こうよと提案してくれた。大丈夫だろうか。私が産んでもバンくんとは何の関係もない。それでも…バンくんが来てくれたことだけが嬉しくて、私は車いすに乗ってバンくんと一緒に面会室に向かった。

「私の…赤ちゃん…」

「うん…(目元とかヒロに…似てる…)」

「バンくん…私の…」

「うん…可愛いね。男の子だ。ねぇそろそろ戻ろう」

身体にも悪いから。そう言われて心配してくれているのかと思って素直に部屋に戻った。あの子は…ヒロとの子…あの悪夢のようなあの夜に宿った子…そう考えると素直に抱けないかもしれない。でも私が産んだ子…。

「これからどうするの?」

「私は…高校にはいかない…あの子を育てる」

「…そっか…でも…施設に預けないの?そうしたら高校にも行けるよ?」

「施設…」

私はあの子を産んで、施設に…。親がいない寂しさを知っているからやっぱり…きっとバンくんは私にとって一番幸せになる道を教えてくれてる。でもそれはあの子のいない私。幸せでなくても私が保護者なんだから無責任なことはできない。

「いいの…一戸建てを買ってそこで過ごすから…」

「俺と…ジンの関係は?どうするの?」

「私はバンくんが好き…バンくんが許してくれるのなら」

「でも…俺にも高校があるから…一緒には住めない…」

「わかってる…少しだけでいいの…遊びに来てくれないかしら」

「うん……」

それからバンくんと軽い会話をして別れた。こうやってバンくんとの関係はいつまで続いてくれるだろうか。あの日から私の人生は狂った。でも…もうヒロにもあってないし、私はここから新しい人生を歩んでいくんだ。
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