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□小っちゃくなっちゃった
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朝なんだか体が重かった。上に誰か乗ってるような…薄ら目を開けると白と黒のコントラストがぼやけて見えた。俺は、ああ夢を見ているのかとまた眠りに落ちようとした。だってジンがこんなことをするはずがない。さぁ、目覚まし時計がなるまでもう一眠り。
「…ん!……ゃん!!」
もう…夢なのに嫌にうるさいな…。また目を開ける。またコントラスト。一体どんな夢なんだ。幼いジンが見えるだなんて。俺にそういう趣味は無いよ。と一瞥してまた眠ろうとすると、今度は襟を掴まれてゆすられた。一体どんな夢なんだ。これじゃ安眠妨害だ。気持ちよく寝るためには一度起きてこの夢から覚めたほうがいいみたいだ。この幼くて可愛いジンを見れなくなるのは少し惜しいが、起きたらいつものジンが見れるだろう。そう思って俺はガバっと起き上がった。
「おはよう!!」
そう言ってみる。誰からも返事は返ってこないだろうと思った。だって俺は夢のせいで起きたんだし、みんなはまだ夢の中だと思った。でも返事はひとつあった。幼い声。ダボダボの服を羽織って。黒いズボンと袖なしのダウンはそこに脱ぎ散らかされている。ああパンツもだ。とりあえずジンと同じ髪をした男の子を抱き上げて落ちている服を拾い上げた。
「ジンー…あれ?いない…」
どこに行ったのだろうか。ズボンもパンツもダウンも脱ぎ散らかして。シャツ一枚でどこかに行ってしまったのだろうか。そんなの公然わいせつでジンが捕まっちゃう!それにジンの生足をほかの人に拝ませるだなんて俺が耐え切れない!
「いるよ!僕!僕がジン!!」
?何言ってるんだろうこの子…。
「同じ名前なんだね、容姿も似てるし、ジンのファンかな?でも、だからってこんなところに来ちゃダメだよ」
こんな格好で…。今のジンもきっとそんな格好で出歩いてるよ…。はぁ…大丈夫だろうか。今すぐにでも探してやりたいよ。ところでこの子はどこから来たんだろうか。とりあえずこんなに大きな服じゃなくてちゃんとした服を着せてやらないと。
「お兄ちゃんここどこ?」
「ここはNICSっていうんだ。君みたいなこがいると危ないよ。おうちに帰ろう?」
「おうちはどこ?」
へ?何言ってるの?帰る家がわからないとか、じゃあ君は一体どこから来たんだって事になるよね。俺が困ってるとその子は目を潤ませてきた。
「おうち…どこぉ…?パパとママはぁ…?帰れないのぉ…?」
ふ、ふぇ…っ。と鼻をグズグズ鳴らして今にも泣き出しそうだ。こんなに小さい子が泣いたらきっと泣き声でみんなが起きてしまうから抱えたまま急いで部屋を出た。とりあえずダックシャトルに入れば誰もいないだろう。そう思ってダックシャトルに急いだ。バタンとドアをしめる。そして抱えていたジンのファンの子をおろした。
「ここどこ…?」
「うーん、乗り物かな。今は動かないけど」
「おうちは?」
「あとで一緒に探そうか。ところで君、服は?」
こんな大きな服を着て、一体どうしたんだ。ジンのシャツに似ている気もするがジンのコスプレがしたかったのかな。髪と赤い目だけはバッチリと決まっている。見れば見るほど可愛いなぁ。いや、別に俺にそういう趣味はないからな。俺はジン一筋!
「朝おきたらこの服だったの」
え?それってやばくない?こんな事になるなんて絶対何かあったよね?ま、まさか…無理矢理いかがわしいことをやらされたんじゃ…。そんなことが頭をよぎって不安が募る。
「何かされたりしてない?大丈夫?」
「ううん、何もされてない」
「そっか…よかった…」
ほぅ…と息を吐く。そっか。この格好は何もないんだ。変なこと考えちゃったよ。だってパンツもなにも履いてないから。とりあえずこの子に合う服を探してあげないと。
「まぁいいや。あとで服買いに行こうか」
「うん!お兄ちゃんありがとう」
お兄ちゃん。その呼び方に違和感があった。誰にもそう呼ばれたことないからだ。そういえばこのこの子の名前、聞いてなかったな。さっきは僕がジンだと言っていたが、同じ名前なのかな?それで人のファンだなんて出来すぎているよな気もするが。
「俺は山野バン。君の名前は?」
「僕はジン!」
「へージンって言うんだ。海道ジンのファンだったりする?」
「海道ジンって誰?」
あれ?ジンを知らない?本当に?じゃあなんでこんな格好をしてるんだろう。コスプレじゃなくてこの格好?もしや…いや、ないとは思うが…。だってそんなこと現実に起きるわけない。俺の中で芽生えた可能性を否定したくて目の前のジンくんに聞いた。
「ジンくん、」
誕生日は?血液型は?好きな動物は?ほかにもジンにしかないものを頭に浮かぶ限りで全て聞いた。それに目の前のジンくんは寸分狂わず答えていく。これは…俺の嫌な可能性が当たりそうだ。
「ジン…なんで幼児化しちゃったの…?」
「へ?」
今のジンに言ってもわからないか…。とりあえず俺の見解はこうだ。朝おきたらジンは身も心も4才のジンになってしまっていて(それもあの事故が起こる前の)、服も大きいままのジンのだったからこんなにサイズが合ってなかった。と。だから本来のジンが公然わいせつをする線はなくなったんだけど、このジンは一体どうしたらいいんだ…!!
「どうしてこうなったかは覚えてないんだよね?」
「うん」
「はぁ…まぁ…いつかもどるよね」
ダックシャトルの時計を見るともう朝ごはんの時間が終わろうとしていた。これはジェシカが怒っているだろうなぁ…。でもこのジンをばらしたらまためんどくさいことになりそうだ。バレたときはバレた時だけど、とりあえずは俺ひとりで動いてみよう。
「お兄ちゃん、服欲しい」
「ああそうだね、お腹もすいたよね?買いに行こうか」
お金はあとでジンに請求しよう。ジェシカに見つからないように部屋に戻ると財布とCCMとエルシオンを持った。そして持ってきたもののすぐに着れなくなってしまった俺の服を引張りだす。そしてジンを待てせているダックシャトルにすぐ戻った。
「お待たせ!お店まではこの服着てて」
だいぶ大きいけど、今よりはましだろう。ちゃんとパンツも履かせて、ずり落ちそうになるズボンは腰のところを折った。まぁそれでもずり落ちるから俺が抱えていくことにしたんだけど。
「じゃあ行こうか」
「うん!」
まずはコブラに連絡を入れる。俺とジンは今日オフにしてくださいと。それから返事を待たず街に出て、子供の服が売っている店を探す。キョロキョロとメインストリートを物色しているといい感じの店が目にとまった。とりあえずそこに入った。
「あの、安くてこの子に合う服ありますか?」
「はい、お待ちください」
「お兄ちゃん買ってくれるの?」
「うん」
あとから自分で買ったことになるから心配しなくても大丈夫だよ。にこやかに頭を撫でてやる。4歳児ってこんなに軽いもんなんだなぁ。可愛いジンを横目に、店員さんが用意してくれたコーデを買い取る。そしてそのままジンに着替えさせて、俺の服はもう着ないしそこで捨ててもらった。そこからは手をつないで歩く。
「お兄ちゃん、お腹すいたー」
ジンがぐずり始めた。俺はそうだなーと言いながらなにか軽食を食べれるところはないかと探した。そこには運良くカフェがあったから、そこにジンの手を引いた。サンドイッチをご馳走したらジンの機嫌は良くなった。あーよかった。道のど真ん中で泣きだされたりしたらたまったもんじゃない。
「美味しいね」
「うん」
でも、なんだかこんなジンもいいかもしれない。普段の気負った部分とかがないし、本当に正直で素直だから、きっと楽だろうし俺も普段と違ったジンが見えていい。たまにはこんなジンもいいかも。そんな風に微笑んでいた時ジンが飲み物をこぼした。
「あー…こぼしたー」
「あー…じゃないよ!すみません!」
もう!とりあえず気まずくなって店を出た。これからどうしようかな。とりあえず今のジンを楽しませてあげたいな。
「あ、ジン、苗字はなんていうの?」
これだけは聞きたかった。ジンが海道になる前の苗字。一度ジンに聞いたけど、辛そうな顔をしたからやめたんだ。でも、もうジンは海道じゃないといえば海道じゃないんだ。だから、本当の苗字で生きたっていいじゃないか。
「えっとねーー秘密!」
「な……え??」
「はやくー!バンくん!」
「………はぁ…待てよジンー!」
そうか、ジンはもう、海道ジンとして生きていくって決めたのか。なら俺は止めない。一緒に支えていく。ずっと。
fin.