夜空の虹と月の魔法
□夜空の虹と君の声
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「あのさ、いつも、何読んでんの?」
授業が終わるやいなや、太陽は勇気を振りしぼって蒼に話しかけた。
気になり始めるといてもたってもいられない。
とはいえ、相手は全てにおいて無関心な水無月蒼だ。
あらゆる不安材料が太陽の頭の中をグルグルと駆け巡った。
もし無視されたら……。
もし拒絶されたら……。
案の定、にっこりと話しかけた太陽をよそに、蒼は無表情で本を読み続けている。
どうやら話しかけられているのに気づいていないらしい。
気を取り直して、目線が合う位置までしゃがみ込み、同じように声をかけた。
「ねえねえ、何読んでんの?」
「……?」
覗きこまれたことでようやく気づいたのか、蒼が少しだけ驚いたように反応を示す。
数秒の間を置いた後、視線をフラリと左右にさまよわせ、顔を上げた。
この期に及んで、話しかけられているのが自分なのかどうか、確かめたに違いない動作だった。
「集中して呼んでたね。その本そんなに面白い?」
「…………」
しばらく考える素振りをみせた蒼は、口を開くことなく、突然パタンと本を閉じてしまった。
手元をよく見ると、厚めのハードカバーに、自分で用意したらしい紙のブックカバーがかかっている。
おかげでタイトルはわからないが、端が擦り切れてボロボロになっていた。
(うわー……、相当読み込んでるなぁ……。)
かなり年季の入っていそうな代物に、好奇心が疼く。
中身が知りたい。
この無口な少年が、擦り切れるほど大事にしている本がなんなのか、気になって仕方がない。
蒼が一体どんなことに興味を持ち、何を考えて生きているのか想像がつかないだけに、彼を知りたいという欲求は、どんどん膨れ上がっていた。
そんな太陽の気持ちとは裏腹に、小さくため息をついた少年は、口を開くのも億劫そうに首を振ると、立ち上がって廊下へと歩き出した。
「あ、水無月……っ!」
慌てて彼の後姿に声をかけたが、何の反応も返ってこない。
なんとなく心が折れて、その場にへたり込んだ。
(あれは、拒絶だったんだろうか。ものすごく警戒されていたのはわかる。)
今のやりとりをしている間中、やはりとでも言うべきか、一度も目が合うことはなかった。
(俺、もしかして嫌われてる……?)
あれじゃほとんど無視されたのと大差ない。
思考がマイナスの方に傾きかけ、ブンブンと勢いよく首を振った。
(イカンイカン!ポジティブさだけが俺の取り柄なのに!)
太陽は、「よし!」と気合を入れ直す。
もうこんなにも蒼に興味を持っている自分がここにいるのだ。
あの懐かない黒猫のような蒼と、仲良くなってみたい。
彼の見ている世界を、一緒に感じてみたい。
なによりもまずは、こっちを見て欲しい。
絶対に合わない視線を、こちらに向かせることができたら……。
想像しただけで高揚する自分に驚きつつも、俄然やる気が出て来た太陽は、心の中で蒼に向かって叫んだ。
(見てろよ!絶対、ぜーったい、振り向かせてやる!!)