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□ああ、痛々しい
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※卿←ヒロイン、セブリリ前提
















寝室からいきなり轟いた爆音に、せっせと課題の採点をしていたスネイプは慌てて立ち上がった。時計を見ると、彼女が出掛ける前に男に告げていた予定の時間にはまだなっていない。



「くっそ…腰打った…」

「…おい、なんだその格好は」



寝室に駆け込んだスネイプは目を丸くした。暖炉から飛び出した時に上手く受け身を取れなかったのであろう、絨毯の上にしゃがみこんでいる女が数時間前にはしっかり纏っていたはずの黒いドレスは、原形を留めないほどにひどく引き裂かれていたのだ。

ほぼ全裸と言ってもおかしくない姿であるにも関わらず、女は部屋に入ってきた男の存在をあまり気にかけていないようだった。だが、スネイプが女の身体中に付けられた鬱血に更に目を見開いたのを見て、そこで初めて彼女は素肌を隠すように布切れを掻き寄せる。


「お前、任務は―」

「あー、ウン。ひとまずシャワー貸してくれない?」



女―なまえはスネイプの言葉を遮ると、ドレスを持ったまま立ち上がった。そのまま返事は待たずに小走りで部屋を駆け出していくなまえを、スネイプは呆然と見送る。






しばらくしてシャワー室から出てきたなまえは(服は、わざわざスネイプが彼女の部屋まで取りに行った)、スネイプから温かいブラックコーヒーを受け取るとソファーに腰掛けて大きくため息をついた。向かい側に座り紅茶をすするスネイプが彼女をなにか言いたげに見やると、なまえはコーヒーを一口飲んでから語り出す。


「今日の私の任務がなんだったのかはご存知?」

「確か…騎士団員から情報を聞き出す、だったか……?」

「そうそう。アー、なぜこうなったのかは薄々わかるでしょう?所謂、色仕掛けよ」



そこまでしゃべると、なまえは再びコーヒーを口に含んだ。一方スネイプは、驚愕して目を丸くしている。



「お前が…色仕掛け?」

「なによ、ご不満?まあ、相手が調子にのって本気で襲われかけたから、忘却術かけて逃げてきたんだけど」

「…誰の命令だ?」



つまりは任務失敗ね、とおどけて笑うなまえは、スネイプの問いに目をぱちくりさせた。



「誰って…我が君に決まってるじゃない」

「我が君が?お前に?色仕掛けをしろと?」

「……ねえ貴方、なにか勘違いをしているのではなくて?」



困惑しながらそう問うたスネイプに、なまえは心底不快そうに眉をひそめた。そのすらりと長い足を一度組み替えると、彼女は自分を戸惑いの目で見つめるスネイプを鼻で笑う。



「私と我が君は…アー…『貴方が思っているような関係』ではなくってよ。あの方は私で暇潰ししているにすぎないわ……当たり前でしょう?そういう人よ」



少し哀しげに目を伏せた彼女だったが、それでも彼のことを語る言葉はあくまでもいとおしげだった。それがなおさら、痛々しい。スネイプは再び彼女に問いかけようとしたが、それをなまえが遮った。



「ええ、そうよ、だから言わないで―」彼女は、子供が親にねだるように捲し立てる。「―私、とっくに諦めたんだから……」

「……戯れに触れられるのは辛かろう」

「貴方がそれを言うの?―わかってる!わかってるから!」



スネイプの発言を、彼女は許さなかった。何度も言葉を遮られ、さらに彼女の表情がいつにもまして悲痛なのも相まって、ついにスネイプは押し黙る。



「アー、うん、わかってるわ。貴方がその…ウン」



なまえは歯切れ悪く言葉を続けた。彼女の言いたいことを痛いほど理解しているスネイプは、思わず視線を少し下げる。



「でも…気を悪くしないで?私はリリーさんの代わりにはなれない……。貴方も、あの人の代わりにはなれないでしょう」



そういうことではない、と口を挟みかけたスネイプだったが、彼女の最後の言葉に口をつぐんだ。つまりは、それが彼女の気持ちなのだろう。



「貴方のことは好きよ。リリーさんのために、あの人を裏切ったって私は構わないの。ほんとよ。……でも、私は貴方とリリーさんを選ばない」



二人の道は分かたれる。つまりは、そういうことだ。



「私が好きになったのが、貴方だったらよかった」



彼女の黒い瞳が揺れ、一滴涙が零れる。それを悲痛な面持ちで見ていたスネイプは、ぽつりと呟いた。

















(ああ、痛々しい)


我輩も、お前も

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