☆純情エゴイスト
□思いやり
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「ただいまです……」
草間野分は疲れた足を引きずりながら勤め先の病院から帰ってきた。
最近、冬が近付くにつれて患者の数がどっと増えた。季節の変わり目というのは風邪をひきやすい時期でもあり、病院は何時にも増して忙しくなる。
そんな中、研修医である野分は一度に学ぶ量が多く、多忙で疲労困憊な状態だった。
(ヒロさんはもう寝たのかな?)
時間的にも寝ていておかしくないが、帰ってくる最中、少しだけ期待していた。
しかし、弘樹の部屋の明かりは消えていて、家の中は静かだった。
(起こしちゃ悪いし……ヒロさんの顔見て今日はもう寝よう)
野分は静かに弘樹の部屋のドアを開け、ベッドで規則正しい寝息をたてている弘樹のおでこにそっとキスをし、カチャリ…とドアを閉め、部屋を後にした。
自分の部屋に戻った野分はベッドにダイビングした。
とりあえず眠りたくて布団の中にゴソゴソと入り込む。
(あ…目覚まし時計をセットしなきゃ…)
布団の温もりが恋しかったが渋々起き上がる。
(?なんだこの紙?)
目覚まし時計の下に手帳サイズの小さなメモ用紙が挟まれていて、ピラッとめくるとそこには、
『無理すんなよ!』
ヒロさん……それ、反則ですから…
でもねヒロさん。俺は好きな人の為なら、好きな人に追いつける為なら何でもしますよ?
野分はメモ用紙に向かって微笑み、なんだか今日は幸せな夢が見られる気がした。