小説(短)

□大嫌いです
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大嫌いです




俺はあいつが嫌いだ。

いつもふわふわしていて、ちゃらんぽらんなくせに
ふと見せるまっすぐな魂で人を引き付け離さないあいつが嫌いだ。
俺はいつものフラフラしているようなあいつが本当のあいつだとは考えていない。


それはいつも見せることはないけれど確実にあるもの。


その仮面の裏の真っ黒な部分。
そこには何があるのか、いや…何が居るのかといったほうが正しいだろう。
調べても調べてもそれはぼやけてはっきり見えることはない。
見えたと思ってもまたピントがずれてぼやけてしまう、それを見るために目を凝らすも
見えるのは闇ばかりで何も見えやしない。
そんなとき見廻り組との抗争がおこった、そこにあいつもいたのだ。
攘夷浪士を”後輩“と言ったときはやはりそうか、と納得する自分がいた。
桂とも高杉とも攘夷戦争に参加していた快援隊の社長の坂本とも何故関わりがあるのかこれで辻褄があう、そしてあいつはためらいもせずあの異名を名乗った。


”攘夷志士白夜叉“


存在すら疑われていた伝説の攘夷志士。
白夜叉に関しては名前すら書いた物もなく、ただ白夜叉という名前が伝説のように語り告げられていた。
白い武装なんてなんでわざわざ目立つような姿で戦場を駆けていたのだろうか。
抗争にかたがついたついでにあいつにも手錠をはめてやった。
いつも通りのテンションで騒ぐあいつはちっとも仮面をはがそうとしない、
それどころかもっと頑丈に仮面の隙間を固められた気がする、今のところ攘夷活動をしているという情報もないので仕方なく解放してやった。
あのふざけたポニーテールを引きちぎってやればよかっただろうか。


あれから数日後、ネオン街を少し抜けた路地裏であいつを見かけた。


何か言い合っているのだろうか、
中年のおっさんに手首をつかまれどうにか逃げようとしているようだ。
あんなもの殴って吹き飛ばせば早いだろうに、すぐに手は出さないのだろうか。
会話に耳をすました、少々自分の耳を疑った。


「何でも屋なんだろう?男と寝るなんてざらなんじゃないのかい?」

「うちはそんなことやらねーの!俺に男と寝る趣味はねーよ!」


…もの好きなおっさんもいたものだ。
あの万事屋にあんなこと言えるなんてどっかネジが抜けてるんじゃねーか?
これ以上会話を聞くのも意味がないし、警察として見逃すわけにはいかない。


「おい、何してんだ」

「へっ?何してんの多串君」

「土方だ、警察だ、しょっぴかれたくなけりゃどっかいけ」


警察と言えば大体のこういう輩はその場から去ってゆく。
万事屋に迫っていたあのおっさんも路地の暗闇にそそくさと消えて行った。


「…なんかお前が俺を助けるとか気持ちわるい…」


なんだか変なものを見たような目をこちらに向けている。
せっかく助けてやったのにこの反応である、


「お前に感謝されてもきもちわるいけどな、てかなんでてめーはこんなとこでおっさんに絡まれてんだよ」

「なんか飲んでたらやたら話しかけてきて、もう一軒行こうって話になってさその途中で路地裏に押し込ま、れ…て」


突然銀時はその場に崩れ落ちた。


「?おい…」

「…あのおっさんなんか盛ったな…手首つかまれたとき通りで振りほどけねぇわけだ」


どうやら一時的に力が弱まる薬を盛られたようで、
その薬が効いてきたらしく立っていることもままならなくなったらしい。
あのおっさんはこの状態になるまでまっていたのであろう。
男とはいえ力さえ奪ってしまえばあとは簡単だと考えたらしい、


「お前俺が通りかからなかったらやばかったぞ」

「あれくらい大丈夫だっつーの」

「どうだか」


いまだに座り込んでいる銀時の腕を引き上げた。


「いつまで座り込んでんだ、さっさと帰れ」

「立ねーから座り込んでんだよ、馬鹿か」

「自力で立って見せろや、馬鹿」


銀時は腑に落ちない顔をしながらも足に力を込め壁に寄りかかりながら立つも
身体は薬に侵されて足は今にも崩れそうなほどガタガタと震えて
バランスを取るのに精いっぱいだ。


「しょうがねぇ、おぶってやる」


その言葉に銀時は目をぱちくりさせ、不審な顔をした。
いつも何かと突っかかってくる土方が手を差し伸べるなんて不思議でならないのであろう。


「…おねがいします…」


恐る恐る身を任せる。
ふわっといとも簡単に持ち上げられ地面から足が離れる。
それにしても煙草くさい、服に鼻を押し付けずとも香る強い臭いだ。
おぶられるなんていつぶりであろうか、子供のころは先生におぶってもらったり、戦にでていたころは怪我した時におぶったりおぶられたりしたか。


「おい、万事屋」

「はい?」


いきなり話しかけられる。


「てめーこの前白夜叉とかいっただろ、高杉や桂とはそこでしりあったのか?」

「何をいきなり…あ、てめっそれ聞くために逃げないようにおぶったのか」

「…どうなんだ?」


銀時は諦めたように溜息を吐き仕方なく話し始めた。
ネオン街から離れて人通りもない道を土を踏む音と銀時の声だけが響く。


「ヅラ…じゃねーや桂と高杉とは幼馴染だ、腐れ縁ってやつ。辰馬、あのバカ社長とは攘夷戦争中にしりあった」


それだけをいうとまた黙り込む、そしてまた土方が問う


「…じゃあ、なんで桂や高杉がいまだ攘夷をしているんだ?」


銀時は3秒ほど間をおいてからそうだねぇ、と少し笑いながら言った後低くどこか切ない声で答えた。


「…お前らは尊敬する奴を殺されて仲間まで奪われたらどうする?」


それに返す言葉も出てこない。


「俺たちには恩師がいたんだ、幕府に入り込んだ天人によって処刑。ついでにさらし首そりゃ憎くて憎くて攘夷戦争に桂と高杉は参加、俺はなんとなくついていくように参加したんだけどね」

「お前は憎くなかったのか?」

「…そうだね、憎かったよ。けど先生が連れて行かれる時そばにいたのにそれを止められなかった自分自身のほうが憎かった、生きる意味すら無くしたけど簡単に死んで楽になるなんて許せなくて今もこうして生きてるわけだけど」


ふわっと冷たい風が頬を撫でて髪を揺らす。


「高杉は一番先生を慕ってた、慕うっていうより崇拝に近かった。そして戦に参加して鬼兵隊を作った、あいつは今はあんなんだけど仲間思いな奴でな、けど鬼兵隊の奴らは河原にさらし首、あいつはそこから狂い始めたのかな、桂とは思想がずれてきてお互い離れたみてぇだ」

「お前はなんで攘夷をやめた?」

「…敵を斬っても斬っても仲間が死んでく中で相当参ってていつの間にか歌舞伎町に流れ着いて野垂れ死にそうになっているとこをババアに拾われた。もう戦う気もなくてもし戦ったとしても見えるのは雑魚だけで上にいる奴は顔すら見せないのに勝ち目すらわからない、それに成し遂げても先生が帰ってくるわけじゃない」

「そうか…」

「沖田君なんか危ないよ、近藤が殺されたら何するかわからない」


そうならないようにちゃんと大将を守れよ、とあいつは笑った。

仮面の裏はまだ暗い部分が多い、しかしわかったことは一つ。
その裏は決して明るい物ではなく非常に暗い過去、それでもあいつは前を向いて笑っている。


それが気に食わない。


弱みを見せず、しっぽをつかんだと思ったらそれはダミーで姿さえ見せない。
俺は人に頼ることをせず、一人で抱え込むあいつが大嫌いだ。




















**


なんだろう、これ。
全然土銀じゃなくね?と見せかけた土(→)銀みたいなのが書きたかったんです。
土方も自覚してなくてイライラするのは嫌いだからと思っている感じが書きたかったんです

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