小説(短)

□御守り
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※別れ、死ネタ。土方に奥さんと子供ができます。







別れを切り出されたのはいつだったか。
今までうまくいっていたと思っていた、しかしアイツは俺に別れ話を持ちかけたのだ。
勿論、何とか別れまいと引き留めようとしたがアイツの決心は固く諦めて引くしかなかった。
暫くは何かに取り付かれたように仕事に没頭した、珍しく突っかかってこない総悟に気を使われているようでさらに俺を苛つかせた。
どんなに仕事を詰め込もうがふとした瞬間に紛れ込むアイツが憎い。
もっと大切にすれば良かったのか?もっと気持ちを伝えれば良かったのか?そんな疑問ばかりがよぎり仕事をする手が止まる事もしばしば。
そんな時に縁談の話が持ちかけられた、今思えば余りにタイミングがよすぎた。
自暴自棄になっていた俺はその話を受けた。
別に妻となった女を愛す訳でもなかったがいい女だったと思う、最初にお前を一番にする事は出来ないと告げた時も何も言わず着いてきた。
何故俺の所なんかに嫁に来たんだか、

一方万事屋はチャイナがでかくなり親父について行くと万事屋を出たと聞いた。
銀時はまだ無茶をやっているらしく、町で見かけたのは痛々しいくらい包帯に巻かれた身体を引きずって歩くお前。
すれ違ったときに見えたのは包帯に滲んだ血、あぁ何で抱きしめられないんだろうか。何で護れないんだろうか。

延ばしかけた手を握り締めて足早にその場を離れた。

暫くたったある日、妻が御守りを銀髪の男に貰ったと言った。きっとアイツだろう。
安全祈願と妊娠祈願の御守りだった、妻は「綺麗な人だった、あなたが
好きなのは」あの方でしょう?と笑った。男だぞ?と言っても見たが隠さなくても良いですよと笑われた。

そのころ総悟にいわれた。

相手のために別れたのにこれじゃアイツが不憫だと、

一瞬意味が理解出来なかったがすぐに理解した。
そして後悔した、あのとき何としてでも引き止めれば良かった。
真選組の門を出るとアイツがただ塀を見つめていた、何をするわけでもなくただ何かを考えて居るような顔で。
アイツから目を離せずじっと見ているとアイツはこちらに気づいてニコリと微笑んだそして何かを話しているのか口をパクパクさせそのまま背を向けると歩いていってしまった。



それから数週間後、アイツが入院したらしい。


容態は良くないらしくなかなか出て来れないらしい。
そんな時坂田銀時を始末しろとの上からの命令が下った、弱っているところを殺れと言うのか。当然反対したしかしやらねば真選組を潰すと言われそれ以上反対することは出来なかった。
俺は真選組を護らなければならない、俺の独断で潰すことは出来ないと心を捨てる事にした。
総悟が自ら行くと言ったが断った、他の誰かに渡してたまるものか、どうせ殺してしまうならいっそこの手で。

アイツが入院している病院に足を向けた。

自分一人だけだ。


案内された病室の戸をノックし、中にに入るとベッドに座り窓の外を見ているアイツがいた。
開けた窓から柔らかい風が入り銀時の髪を揺らす、アイツはこちらに気づいていらっしゃい、久しぶりと笑った。

「俺さ、もうすぐ動けなくなるみたい」

何の曇りもない表情で言われた絶望的な言葉。

「今まで無茶して来た後遺症なんだってさ目ももう半分見えないし声もこれが精一杯」

「…銀時」

「仕事、しにきたんだろ?」

「…」

「ここじゃあれだし外、行こうぜ」

言われるがまま病室を後にして春の暖かい風がふく外にでた。
元から白かった肌が外に余り出ていないせいかさらに白くなり光を反射する。
病院の隣にある林の近くまでくると銀時の足が止まった、ここで殺れってことだろう。

「痛いのは嫌だから即死でな」

「…っ…あぁ」

「…なんて顔してんだよバーカ」

明るい声が前と全く変わらなくて辛い。

何でこうなったんだろうか。
何故コイツが死ななければならないのか、人間の幸せが平等だと言ったのは誰だこんなのおかしいだろう。
誰よりも人の幸せを願って人を幸せにして来たコイツが何故。
コイツの育ての親の墓で幸せにすると誓ったのに結局幸せにするどころか不幸にしている。


「奥さん綺麗な人だな」

「…」

「あの人とお前の子供は可愛いだろうな」

「…っ銀時俺は…」

思わず抱きしめた体が前よりずっと細くて冷たい。

「そうだな、次生まれるならお前とあの人の間に生まれようか。」

「銀時、愛してた、今も愛してる」

「うん」

つぅ、と暖かい感触が頬を伝う。
本当にコイツが子供として生まれて来ればいい、そしたら命いっぱい愛そう。

「さようなら」

そう言って笑った銀時の脈を切った。
顔にかかる生暖かい血、支える意思を失い崩れた身体を抱き留めた。
血に濡れた身体はまだ暖かいのにぴくりとも動かない。

ずっと続くとは思っていない、けれどあと少しだけそばにいたかったと言うのはわがままだろうか。


 




仕事は終わったと電話を近藤さんに入れた。
近藤さんは泣いていた、ごめんな。と謝るばかりでやはりこと人は変わらないと思った。
帰宅すると妻が待っていた。
妻は俺が帰るなり話し始めた、銀時に貰った御守りには手紙が入っていると。

貰った際に、自分が死んだら中に手紙が入っていると伝えてほしいと頼まれたらしい、急いで御守りの口をあけるとそこに入っていたのは折りたまれた紙。
それを恐る恐る広げるとそこにはアイツの字で

「あなた達を護ります。」

と書かれていた。
妊娠祈願の方には「家族で元気に末永く幸せに」と。
どうせなら恨みの文章でも書いてくれれば良かった、思わずその場で泣いてしまった。

 



次こそは幸せにするから待っていてください。








その年の10月、生まれた子供は銀髮の赤色の目をしていた、顔は父親である俺に似ていた。医者は色素欠乏症であろうと診断したが視力にはなんら問題はなくその他も正常で健康であった。









end.

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