夢現.壱

□五之夢
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沖田「紀亞ちゃん、起きなよ。」

『ふあ……んだよ……こんな朝早くに……』


こうやって沖田が部屋に入ってきても起きないようになった。
まえは、誰かがそばにいると自然に目が覚めちまってたんだがな。
しょっちゅう沖田が入ってくるようになってから、自然と人がいても寝ていられるようになった。
もちろん、敵意を感じればすぐに起きるが。


沖田「お早う、紀亞ちゃん。」

『だから、なんだってんだよ……お前のせいですっかり目が覚めちまったじゃねーか。』

沖田「今日調理当番でしょ?千鶴ちゃんもさっき起こしたし、あとは君だけだよ。」

『はぁ?いつの間に俺は調理当番になったんだよ……』

沖田「君が嫌って言っても、ここに居候する限り、料理の手伝いぐらいはやってもらうよ。」

『ったく、めんどくせえな……』


しょうがない。
布団から出て、片づけた。
寝間着の腰ひもに手をかける。


沖田「ちょ……僕の目の前で着替える気?(無防備すぎない?)」

『嫌なら出てきゃ良いじゃねえか。俺は別に気にしねえ。』

沖田「ふーん。(それって男として見られてないってことだよね?ちょっと複雑……。せっかく美形なのに。)」


沖田も別に出ていく様子はないので、着替えを続行する。
晒は寝るときは緩く巻いてるから、きつく巻きなおした。(晒を取ったときは流石に沖田もそっぽを向いていた。)

それから手早く着替えて、調理場に向かう。


千鶴「紀亞さん!大丈夫ですか!?何もされてないですか!?」

『??……おい、沖田。こいつに何吹き込んだわけ?』

沖田「別に……役に立たないなら斬っちゃうかもとは言ったよ。」

斎藤「総司。変なことを吹き込むな。副長が屯所預かりとしている間は俺たちは勝手には斬れぬだろう。」

『あー……んで?俺は何をすればいいんだよ?』

沖田「そうだなぁ……じゃあ君はそこの大根切って。」

『はいはい……。』


ストトトトトトト…………

手早く終わらせてしまおうと、包丁を握って切っていると、周りの視線が自分に注がれていることに気付いた。


『なんだよ?』

千鶴「紀亞さん……すごいですね!」

『は?何が?』

沖田「そりゃ、その包丁捌きでしょ。君、料理うまいんだね。」

『別に……。上手くならざるを得ない環境にいただけだ。』

斉藤「前々から思っていたのだが……あんた、どんな環境で育ってきたのだ?」

『……教えると思うか?。誰にだって話したくないことの一つや二つ、あるだろう。おまえたちだって俺らに知られたくないこと、知られちゃまずいことがあるからこそ、俺らをここに監禁してるんだろうが。』

斉藤「確かにそうだな。余計な詮索をした。すまぬ。」

『ああ……。』


朝っぱらからいやな空気だ。
でもまあ、それ以上何も言うことはないので、料理に意識を向けた。

手早く切り終えた大根を、味噌汁に入れるからといって沖田が持って行く。
そして、何もできずにおろおろしていた雪村に斉藤が盛りつけを頼み、できあがったお膳を二人で運び始めた。


二人並んで廊下を歩いていると、足音が近づいてくる。
雪村はお膳を運ぶのに集中していて気づいていないみたいだ。

曲がり角まできたとき……

サッ

お膳を体ごとよけた。
雪村は曲がってきた人物に気づくのが遅れ、ぶつかってしまった。


永倉「あっつ!なんだこれ!」

原田「大丈夫か?怪我ねえか?」


原田にぶつかり、味噌汁が飛び出して永倉にかかってしまった。
しかし、雪村は原田に支えてもらったため倒れることはなかった。


千鶴「え……あ……す、すみません!」


慌てて自分の足でしっかりと立つ。


『まったく……こぼれないように注意するのはいいけど、前方注意ぐれえしっかりしろよ。』

千鶴「すみません……。」

原田「気にすんな。それより、紀亞。お前、気づいてたのに言わなかっただろ!」

『別に教えてやる義理もねえだろ。だいたい不注意だったのはこいつだろ。俺に怒るのはお門違い。』

原田「そりゃそうだがよ……。気づいてたんなら教えてやればいいのに。」

『んなことより、このお膳どうすんだよ。めちゃくちゃだぜ。』


このまま問答を続けても平行線をたどるだけだから、話を変えた。


原田「俺のところに置いておいてくれ。ぶつかっちまったのは俺だからな。」

千鶴「で、でも……。」

原田「いいんだよ。」

『わかった。』

永倉「ここの片付け俺たちがやっておくから、早く運んじゃいな。冷めちまうぜ。」

『ああ……頼んだ。』

千鶴「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


言うこと言ったらすたすたと歩き出す俺に、雪村は慌ててぺこりと頭を下げて追いかけてきた。
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