夢現.壱

□十之夢
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……今日はやけに屯所が騒がしい。
いつも騒がしいのだが、今日は特に、だ。
お陰で落ち着いて仕事も出来やしねえ。

幸い急ぎの物もないし、集中力も途切れちまったから雪村でも呼んで茶でも飲むか、と思ったとき。
部屋の外から声がかかった。


斎藤「副長。斎藤です。入っても宜しいでしょうか。」

土方「ああ、入れ。」


ずいぶんと慌ているようだ。
要件も言わないとは、斎藤らしくもない。


斎藤「失礼します。」

土方「どうした。」

斎藤「それが……。」


やけに歯切れが悪い。よっぽど深刻な問題か何かなのか?


斎藤「雲雀が、見当たらないのです。」

土方「……なに?」


一瞬脱走かとも思ったが、それは違うだろう。
未来から来たと言うあいつには、脱走したところでいく宛などないだろうから。
……もっとも、それが嘘だと言う可能性もなくはないのだが。


土方「それで今日はやけに騒がしかったのか……。
総司とかに心当たりはないのか?」

斎藤「いえ……、普段用のない時は廊下にすら出ないようですので。」

土方「そうか……。まあ心当たりがあったらとっくに探してるだろうしな。」

斎藤「それで、お願いしたいことが。」

土方「なんだ?」

斎藤「巡察の際に普段の道を拡大して捜索したいのです。」

土方「わかった。多少時間がかかっても構わねえ。念入りに探せ。
平隊士どもはあいつのこと知ってるのか?」

斎藤「はい、何人かは知っているかと。」

土方「なら問題ねえな。
……っとそろそろ時間だな。行ってこい。」

斎藤「はい。」


襖が閉まり、斎藤の足音が遠ざかっていく。

ったく、どこいっちまったってんだよ?
まあ、そのうちひょっこり帰ってくるかも知れねえし、あまり根は詰めさせないようにしねえといけねえな。

そう思って、俺は雪村に茶を頼み、一休みした。

――ところが、俺の予想……というか期待は物の見事に外れた。

その後五日間、聞き込みをしたり、探し回ったりしても雲雀は出てこなかったのだ。


土方「っくそ!何でこんだけ探し回ってんのに情報の一つすら掴めねえんだよ!」

山南「落ち着いて下さい、土方君。怒鳴ったところで出てきませんよ。
……とはいえ、妙ですね。失踪にしろ連れ去られたにしろ、殺されてしまったにしろこれだけ聞き込んでいれば情報が入ってきてもおかしくない筈なのに……。」


雲雀は、出会いも身元もすべてが怪しい奴だがこちらの都合で新選組預かりにしている身。
それに、あれの存在を知っている。
なかなか見つからずにあせる俺を、いつものように山南さんが冷静な口調で宥めた。

俺ですらここまで焦っているのだ。
あいつのことをやたら気に入っていた総司や、なんだかんだ言って気にかけている斎藤や原田などは大変なことになっていそうだ。

その総司は確かまだ療養中の筈だ。……あとで様子でも見に行ってみるか。


近藤「うむ……無事だといいが。」

山南「そうですね……。しかし、これ以上は何もしようがないというのも事実です。
土方君も、根気強く捜索を続けてください。」

土方「……ああ。」


俺が押し黙ったところで自然と会議はお開きになり、山南さんが部屋から出ていた。
俺もそれにならって立ち上がり、近藤さんの部屋を後にした。

そして、ふらりと立ち寄ったのは、総司の部屋。


沖田「なんですか、土方さん。いるんでしょ?どうぞ。」


俺が声をかける前に、総司は気配で気付いてそう言ってくる。


土方「あ、ああ……。」


やって来たはいいものの、どう切り出したものかと逡巡してしまう。


土方「雲雀のことなんだが……。」

沖田「っ……!!……あの子が、どうかしたんですか?」


やはり思ったとおり、雲雀の名前を出したとたん、総司の顔に動揺の色が浮かんだ。
平静を装ってはいるが、バレバレだ。


土方「これだけ近辺を探しても何一つ掴めやしねえんだ。そろそろ大阪の方まで探しに行くべきかと思ってな。」

沖田「!……それで、それを僕に言ってどうするんですか?」

土方「お前が探してこい。一緒に行くのは……原田でいいだろう。」


本当ならばまだ怪我の治っていない総司を行かせるべきではない。
だが、今の総司は鬱ぎ込みすぎている。気分転換のためにも行かせた方がいいだろう。
原田が一緒ならば万が一のことがあっても平気だろうしな。


沖田「……わかりました。いつからですか?」

土方「今日中に出立しろ。」

沖田「はぁい。」


こいつがここまで素直なのも珍しいもんだ……。
それほどまでに気に入ってんのか。


土方「じゃあな。無理はすんなよ。」


俺はそう言って、部屋を出た。
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