夢幻狂花の桜.壱

□桜之陸.
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土方「お前に外出許可をくれてやる。ただし、手の空いてる幹部か観察方も一緒に行ってもらえ。」

『それはいいけど……どうして?』

土方「……。こっちの都合だ。」


少し前、原田に千月の動向に気を付けてくれと頼まれた。
理由を聞いたが、本人と約束したからと、話さない。
無理やり聞き出すわけにもいかねえし、釈然としないまま俺は、千鶴の姉だからと禁止にしていた巡察以外の外出を許可することにした。
千月は、閉じ込めたままにしておくと機嫌が悪くなって、性質の悪ぃ悪戯を仕掛けてくる。しかも、それに総司が乗っかるから余計性質が悪い。

たまに総司が巡察帰りに甘味屋に寄って機嫌を直させているみたいだが、それにも限界がある。
それに、別に外に出しても問題はなさそうだ。
という訳で、俺は千月に外出を許可することにした。


『ふぅん……そっちの都合、ねぇ。ま、大方原田君がなんか言ったってとこかな。』

土方「心当たりがあるってことか。」

『おや。あれだけ疑っていたのだから全部話したと思っていたのだけど。
武士に二言はないってことか。
知らないのなら今は知る必要のないことだ。
流れが進めば追々分かってくることだし、気にしなくてもいい。
それより、なんで今更外出許可なんて出したんだい?』


こっちは心当たりないのか……。


土方「お前が不機嫌になると性質の悪い悪戯を仕掛けてくるからだろうが。」

『性質の悪いって……どこが?あんなの軽い悪戯だろう。』


あれで軽いのか……。
まぁいい。そんなことより――


土方「で、外出するのか。するんなら今日は斎藤が非番だったはずだが――。」

『斎藤君かぁ。じゃ、一緒に刀屋にでも行こうかな。ちょうど刀が欲しいと思ってたとこだし。』

土方「刀が必要なのか?確かお前、かなりよさそうな太刀を二振り持ってただろ?」


そう、千月の部屋には太刀が二振りも置いてある。それも、飾られているわけではなく、“置いてある”のだ。
千月自身、普段はそこそこの脇差をかなりどうでもよさ気に差しているだけだ。


『あれは、そう簡単に使える物でもないし、使えるわけでもない。
だから、普段使える刀がほしいんだよ。
ああ、心配しなくても金子は持ってるよ。』

土方「甘味用の金か?」


甘味が大好物なのは知っている。しかも、かなりこだわりが強い。
そんなことを思って苦笑しながら聞いた。


『よくわかってるね。(笑)』


どうやらあたりだったらしい。


土方「甘味もいいが、飯もしっかり食え。」

『失礼な。僕は普通に食べてるよ。君達が食べすぎなだけでしょ。』

土方「別に、あいつら並みに食えとは言ってねぇ。量の問題じゃねえんだよ。お前は好き嫌いが激しすぎるんだ。
きちんと食わねえで身体でも壊されちゃこっちが迷惑なんだよ。」

『(身体壊してるのは僕じゃなくて君たちの方だと思うけど。(ボソッ))』

土方「なんか言ったか?」

『いや、なんも。……じゃあ行ってくるよ。何かついでに買ってくるものとかあるかい?』

土方「いや、ない。それより、斎藤がついてるなら大丈夫だとは思うが、門限は破るなよ。」

『はいはい、解ってるよ。門限破りは切腹、でしょ?まったく、君は過保護だね。そんな風だからお母さんなんて呼ばれるんだよ。』

土方「誰が過保護だ誰が!俺がいつ誰にお母さんなんて呼ばれたんだよ!?」

『いや……(管理人とか薄桜鬼好きの御嬢さんとか……?)』

土方「あぁもう、さっさと行け!」

『はーい。行ってきまーす。(笑)』


最後の言葉は、変に間延びしながら廊下の向こうに消えていった。

土方「やれやれ……。やっと行った。ったく、面倒な奴だ。
さて……。山崎、居るか!」

山崎「はい。」

土方「一応あいつ見張っておいてくれ。ああ、見つからないようにな。」

山崎「御意。」


天井から山崎の気配が消えるのを待って、文机に向かった。

原田の話を聞いた時、初めは心配のし過ぎだと思った。
しかし、確かに千月には怪しいところがある。
その言葉を無視できないくらいには。
戦場に出れば、信用していないということは簡単に命取りになる。
だから、その信用できない理由を根本的に潰していく必要がある。

その役目には、山崎や斎藤は適任だろう。

そう、思考を締めくくって山積みの書類に手を付けた。
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