02/29の日記

19:40
貴方は、僕を通して誰を見ているの?
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兄が嘘をついたことはあっただろうか?


否。
あるわけがない。
嘘なんてつかなかった。






その報せが届いたのは真夜中だった。
辺りは静寂に包まれ、張り詰めた空気が漂う。
暁闇。
そんな言葉がぴったりの、仄暗い夜。
その報せと共に、家が騒がしくなった。
静寂は喧騒に飲み込まれ、慌ただしく剣呑な雰囲気に包まれた。
「たけにぃ…どこいくん…?」
寝ぼけ眼を擦りながら問いかけるのは、志摩の末っ子である金造。
末っ子とはいえ、最近母のお腹の中に宿った新しい命のために、兄になると張り切っている最中である。
そんな金造の頭を撫でながら、長兄は言った。
しゃらしゃら鈴を転がすような音と共に、矛造は笑っていた。
「ちょっとそこまでな。金が起きるまでには帰ってくるさかい、みんなで寝とりぃ…な?」
「んー…おれもいくぅ…」
右手に毛布を、左手で兄の服の裾を握りしめて呟いた。
明らかに眠たそうであり、実際五歳にもなっていない金造には、この時間に起きているのは辛いのだろう。
「寝な背ぇ伸びひんよ?ずうっとチビのまんまで、弟か妹よりもちっこいんやなぁ」
やだやだと頭を振り、手を離さない金造に苦笑しながらも頭をくしゃくしゃと撫でる。
気持ち良さそうに瞳を細め、擦り寄ってくる様は猫のようだ。
「かっこわるいお兄ちゃんになっとまうえ?それでもえぇんなら行くか?」
「………………………いやや…ねる。たけにぃみたいなにぃやになるんや…」
「矛造!早よしぃや!」
金造が矛造の服を離した。
指の間からするりと抜けていく漆黒の布。
同時に、祖父の声が響いた。
「?じぃがおこってはるん?」
「気にしなさんな。ほな、いってくるわ」
「ぜったい、ぜぇぇったいかえってきてな!」
「おん。約束や」
いってきます。
いってらっしゃい。
玄関で見送った大好きな兄の大きな背中。
金造はそのまま部屋へと戻り、毛布にくるまって眠った。
次に起きたら、大好きな兄を迎えるために。



金造が兄の姿を見たのは、これが最後になった。
けれど、兄は確かにそばにいるのだ。
金造の心の中に、新しく生まれた弟の中に。

「きんにぃ!!」
「なんや」
金造を見つめる廉造は、矛造にそっくりだった。
兄は約束を破ったことなんてない。
今までも、これからも。
「れんのなまえは、たけにぃやないもん!!」
弟の糾弾なんて、聞こえない。





兄が嘘をついたことはあっただろうか?

否。
ぜったい約束は守ってくれる。
だって、ちょっと小さくなってはいるけれど、こうして帰ってきてくれたのだから!







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これに対する感想とかは大体ピクシブのキャプションで書きなぐったけど…
やっぱ廉造かわいいね!
長兄が大好きな金造なんだよってだけ

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