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□6000hit おじゃが様へ
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「ねぇ、坊」

目の前でお固い本を睨み付けている人物へ声をかける。
はたから見たら学術書を読んでいるというよりは、呪術書を読んでいるようにしか見えない。
眉間のシワが凄く深い。
なんだか本がかわいそうに思えるくらい、目付きがひどい。
俺が本だったら泣き出すくらいにはひどい。

「なんや」

すぐに答えが返ってくるけれどこっちを見てくれない。
機械的な反応に、少しだけむかついた。
学術書なんかじゃなくて、こっちを見てよ。
どうしたらこっちを向くかななんて考えていたら、1つの方法が思い浮かぶ。

「俺は、坊が嫌いや」
「おん」
「嫌いです」
「そうか」

つまらない。
少しもこちらを見てくれない。
動揺だってしてくれない。
仮にも俺ら恋人ですよ?
恋人に嫌い言われて、なんでそんなケロッとしてるんですか。
もしかして…と、1つの不安が頭を過る。
もしかして、俺はただのお遊びで本命は別にいるとか?
だって、坊は未来の座主様で俺は下に仕える僧正の息子で。
許されざる恋。
つまりは禁忌だ。
そのスリルを味わいたいがための遊びだったの?
そんなの嫌だ。
俺は、俺はあなたが…。

「坊…」
「なんや」
「坊なんか、嫌いです」
「…そうか」

静かにそう言われた。
なんだろう……泣きたくなってきた。
坊にとって、俺のことは本当に遊びだった?
考えれば考えるほど、思考がぐるぐると渦巻いて…。
色々な想いが溢れる。

「……っ、嫌いですぅ…!」
「…………」
「うっ………ぼんなんかぁ…!ぼんなんか嫌いですぅ!」

ぽろぽろ零れる涙を隠すように机に突っ伏す。
嫌い。
今に限っては、坊を困らす自分も嫌いだ。
何がなんだか分からなくて、どうすればいいのかも分からなくて、自然と溢れてくる涙も拭わずに、ただただ声を押し殺して泣いた。

「志摩」

坊の声。
坊が俺を呼んでいる。
涙で濡れたままの瞳で、坊を見る。

「なんですか……っ、ほっといてくださいよぉ…!」
「堪忍な」

謝られた。
いつのまにかすぐそばまで来ていた坊に抱きしめられ、伝う涙をすくってくれた。
頬に触れた手がくすぐったい。

「志摩、俺は好きやぞ。お前んことがいっとう好きや」
「せやったら…ひっく……なして答えてくれなかったんですか…」
「恋人に嫌い言われたら、そら傷つくわ」

そう言われてはたと気づく。
俺ははらいせに坊に嫌いと言って、何の反応もないから悲しくなって泣いているわけで。
ひどく身勝手で自己中心的だ。
相手の気持ちなんて考えてなかった。

「……ごめんなさい」
「謝らんでえぇ」

頭を撫でてくれる手つきは、普段より優しい。
壊れ物を扱うかのように、ゆっくりと。

「構ってやらんと堪忍な」
「謝らんといてください…俺かて悪いんやし…」

というか、全面的に俺が悪い。
勝手に喚いて、泣いて。
うわ、恥ずかしい。

「で、嫌いなんか?俺んこと」
優しく問われた。

その問いに肯定の意を示すために小さく頷く。

「……嫌いです、勉強ばっかりしはる真面目さんは」
「さよか」

坊は安心したかのように、珍しく穏やかな笑顔を浮かべた。
普段は眉間に刻まれているシワも今はない。

「あと五分待っとり。片付けて準備して、二人でどっか行こうや」
「っ、おん!」

優しく諭すような声音に、お互いの指を絡めて笑いあった。
俺はやっぱりあなたが大好きです。






(どこ行くか)
(せやったら、そこらへんぶらぶらしましょうよ)
(それでいいんか?)
(坊と二人やったら、どこでもえぇんですー)
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