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□8500hit 朧様へ
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茹だるような暑さの中、金造は兄となった。
家族全員が待ちに待っていた五男坊が産まれたのだ。

あの夜以来元気のなかったこの志摩家も、以前と変わらないくらいの騒がしさを取り戻していた。
忙しい八百造は、周りからの気遣いで休みをもらい、息子三人と娘二人を伴って病院への道を歩いていた。

「なぁお父!俺兄ちゃんになれるんやろ?弟できたんやろ!?」

四男である金造は、八百造に腕を引かれ弾む足取りで皆の後をついていく。
今まで末っ子だった金造は、憧れである“兄”になれることが嬉しかった。
逸る気持ちを抑える術を幼い金造が知る由もなく、兄に窘められながらも気分だけはどうしても先走る。

「せやで。きちんと見てやりぃ」
「おん!」

八百造は元気に返事をする金造と明るく笑い新しく産まれた五男坊への夢を膨らます我が子を見守った。
元気になってくれてよかった、と。
そう思うと、新たな命に感謝せずにはいられない。
小さな息子は安寧を持ってきてくれたのだ。

「お父病院通りすぎとるで!」
「…わ、わざとや」
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