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□900hit 柚木様へ
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「いやああぁぁぁあ!!」

悲痛な叫びが、粛々としたこれぞ日本風と言うような木造の家に響き渡った。

「しもた!!ちょっ、待ちぃ!!」

次いでドタバタと廊下を走る二つ分の足音。
怒声と悲鳴が相まって、もうよくわからない二重奏は、絶えることなく響く。
騒音としか言い表せない二重奏。
そんな中、ごく普通に新聞を読む者、惰眠を貪る者様々である。
こんな光景が当たり前であるここ志摩家。
誰も意に介さないが、短気ばかりの家である。
そろそろ次兄か家長の雷がとぶだろう。

「金兄のドアホっ」
「ドアホ言うたやつがドアホなんやで!!くたば廉造!!」
「なにその造語!!ひどない!?」
「ひどない!!良いんもあるさかい平気や!!」
「平気やない!」

廊下を走る音は、いつの間にか玄関へ向かい、外へと遠ざかっていく。
それでもぎゃいぎゃいと居間まで聞こえてくる言い争いに、次兄がこと兄弟喧嘩においてはたいして重くもない腰をあげた。

「自分等、黙りよし!!なんやねんさっきからドタバタドタバタと…騒々しい!!」
「「柔兄!」」

柔造が赴いたのは、庭に面した縁側。
外界との隔たりがないそこは、着流し姿には少々寒いが、柔造は目の前で取っ組み合いの喧嘩になっている弟二人へ怒声をとばす。
やはり、取っ組み合いの喧嘩になると体格の違いからか、多少金造が有利らしい。
金造と、金造にマウントポジションを取られ間接技を決められてる廉造が、いきなりの次兄の登場に目を見開く。

「って、いたたたたた!!金兄むっちゃ痛い!!」

そのすぐ後に廉造は、やはり痛いのか柔造のことなど構う余裕はないのか、悲痛な声をあげた。

「ん?」
「その声…楽しんでるやろ!!」
「そんなことないえ」
「金造…廉造放しぃ」
「お、おん」

このままでは埒があかないと思ったのか、柔造が静かに笑う。
表面だけ見れば絵に描いたような好青年である。
だがしかし、背後に見える禍々しい怒気で台無しだ。

「なんや、言うことあるんとちゃうん?」
「「ごめんなさい…」」
「よし。ほなら、喧嘩した理由はなんやったん?」

先程より小さくなった禍々しい怒気に、笑顔。
まだ多少怒ってはいるが、殴られることはなさそうだ。

「そうや!!柔兄聞いて!!」
「はよしよし」

右手を高々とあげる金造に、柔造が先を促す。

「キスするときに目ぇ瞑らんとかないやんな!?ありえへんやろ!?」
「不意打ちやったんやし、しかたないやん」
「あかん!!」
「いつもは瞑ってるやんか」
「さっきは瞑っとらん!」
「なら、俺からも言うけど、キスするときに頭ひっつかむんやめぇや!髪抜けるかと思うんやで!」
「なんやて!?せやったら緊張して身ぃ退くんもやめぇ!!しにくいやろ!!」
「しゃあないやん!!恥ずかしいんやし!!金兄だって、」

今なお続く弟の言い争いに、目眩を覚えた柔造だった。
喧嘩の原因はなんてことはない、金造の変なこだわりだったのだ。
柔造は、再び取っ組み合いになっている二人を無視して、暖かな居間へと帰っていった。
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