リクエスト

□1000hit 甜珠様へ
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数日前、兄から押し付けられたライヴのチケット。
部屋に寝転がりながら、長方形の紙を眺める。
なんでも、記念すべき100回目記念だとか。
手に入りにくいチケットを、一番人気のボーカルの手から直接手渡されたと知ったら、世間はどんな反応をするのだろうか。
そのボーカルは自分の兄だからさして驚くことではないのだろうけれど、考えるだけで、少し怖い。
眺めていたら、あのときの金兄の顔が思い出されて、なんとなく不思議な気分になった。
普段身内がライヴに行くことを恥ずかしがる金兄からのまさかの誘い。
いつもは日程はおろか場所すら明かさないのに、目の前で存在を主張している紙が、普段とは違うことを示す。
チケットを差し出すときの金兄らしからぬ不安そうな顔。
チケットを受け取ったときの嬉しそうな笑顔。
思い出さなくても良いようなことまで思い出し始めたので、隣に置いてあるケータイを開く。
写し出されるのは、今日の日付。
チケットに書かれた日付と、同じ数字。
始まるまであと、1時間。
兄の笑顔が、不安気な顔が頭から離れない。
開いたケータイをポケットに突っ込み、敷いたままの布団を片付けにかかった。
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