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□1500hit 夕月様へ
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縁側で胡座をかいて新聞を読んでいる柔兄を見つけた。
相も変わらず着流しで新聞を読んでいる姿は、見慣れたものだ。

読んでいて飽きないのか訊ねたことがあったが、俺にとってのエロ本と同じものだと言われたことは記憶に新しい。
そして、重ねて新聞に欲情するのかと訊ねてしまい、体に教えられたことは忘れ難い悪夢である。
あれ以来うっかり口を滑らせないよう目下特訓中。

わざと廊下の木をしならせ、音を出す。
こちらに気づいた柔兄が、笑顔で手招く。
読んでいた新聞をどこかへ放り、膝へ座るよう促される。
新聞なんかより、自分の方が優先順位は高いのだと、今は興味のない紙束に誇ってみたり。
ふふん。

座りやすいように組み直された膝の上に座る。
小さい頃から何をするにも膝の上だったから、何もしてなくても無条件に安心できる場所である。
時には泣いていたのを励ましてもらったり、嬉しかった出来事を逐一に報告して一緒に喜びを分かち合ったりしたものだ。
大きく逞しく見えた兄は今ではあまり変わらない身長に、以前とは違う関係だけれど、この場所が安らぎを与えてくれることに変わりはない。

「なぁ柔兄」
「なんや?」
「んー。なんでもあらへん」
「変な奴やなぁ…相変わらず甘えたさんやしな」

そう言って、柔兄はくしゃくしゃっと俺の頭を撫でる。
昔と変わらない大きな手。
大好きな柔兄の手は、小さなころ魔法が使えるのだと信じていた。
繋いでいるだけで、不思議と勇気が出るのだから、立派な魔法の手だろう。

そんな手を捕まえて、俗に言う恋人繋ぎなるものをして、話を続ける。
絡めあった指から伝わる体温は暖かい。

「せやかて、大変なんやで、いろいろあるんやし」
「せやなぁ」
「金兄に蹴られたし、間接技くらったし、こないだなんか寝技くらってん」
「あとで灸据えなあかんなぁ」

笑いながら怒気がもれている。
柔兄怖い。
笑顔が怖いです。

「まぁ金兄はあれがあってこそやからえぇんやけど」
「殴り愛やなぁ」
「やられ損やん」

あの痛みが、素直ではない金兄からの愛の形だと言うのなら、これからも甘んじて受けてやろうではないか。

「それより、柔兄」
「なん?」
「俺な、疲れてん」
「さっき聞いたえ」
「充電、させたって?」

後ろから抱き締められ、その温もりに包まれる。
ふわりと香る柔兄の香り。
きっと、これが一番の精神安定剤なのだろう。

これで、明日も頑張れる。
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