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志摩家次男の場合



「今日修平さん来はったえ」
「修が?」
「おん。そういえば、いつあんな関係にならはったん?」
「あんな?」
「漫画で見るような感じ?」

弟の疑問に、柔造は首を傾げる。
勅使河原修平のように、自分を慕う者たちが現れ始めたのはいつ頃だったか。
そうだ、あれはまだ廉造が生まれる前。
知らなくても仕方ない。



近頃、明陀の境内に、質の悪い不良が溜まるようになった。
いかにもという外見に、実力もあるらしく参拝客は日に日に減っていき、寺の者も怯える始末。
情けないと思いつつ、近寄るなと親に言われていたが、やらなくてはならないことの中に、境内の掃き掃除があったのだ。
その日も、竹箒片手に境内へ向かった。
賽銭箱の前で酒を飲み、煙草を吸う彼らを無視し、散らかる木葉を片付ける。
ちらりと彼らを盗み見ると、不幸なことに一人の男と目があってしまった。
ヤバイと思ったが、既に遅かったようで、目があった男を筆頭に、こちらへやってくる。

「テメェ、なにガンくれてんだ!?」
「いや、その…」

邪魔だから退いてくださいと言えるわけもなく、良い淀んでいるうちに囲まれてしまう。
日頃、兄に扱かれている俺としては、チンピラに威圧感を感じることはない。
怯えない俺に一人が頭にきたらしく、拳を振り上げた。
俺としては、何故それだけで怒るのかとんと理解できないが、体に染み付いているせいか、うっかり反撃をしてしまった。
しなる竹箒と、驚きに見開かれる双眸。
やってしまった。

「なんや、お前!よくも正紀を!」

リーダー格に見える男が吼える。
いやいや、悪いのはそっち。
正紀と呼ばれた男は、したっぱ格の人たちに担がれ、介抱されていた。
弁解の余地すらなく向けられる怒気に、先手必勝とばかりに箒で打ち据える。
鈍い音と確かな手応えに、笑う。

「お帰りは、あちらですえ?」

殴られた男の腕はありえない方向に曲がっている。
男たちは怯えながらも捨て台詞を残して去って行った。



「男弱っ!ちゅーかそれだけ?修平さんは?」

膝の上ではしゃぐ廉造の頭を撫でてやれば、子供扱いするなとはねつけられてしまった。

「まぁまぁ、話はきちんと最後まで聞きぃ」



あれから数日。
同じく境内の掃き掃除をしていたら、先日殴ってやった男と、新しい男の人。
こちらは、普通の好青年のような出で立ちであり、不良とつるむような人には見えない。

「はじめまして、やんなぁ」

へらりと笑う彼は、ハーフフィンガーグローブをつけていた。
やり返しに来たのか…。

「俺は勅使河原修平言います、よろしゅう」
「はぁ…」
「にしても、お前ら…こないな子にボッコボコにされたん?組のモンに示しつかへんやろ」
「せやかて、頭ぁ!こいつ強いねん!」
「黙りよし。負けたんや、敗者は吼えなさんな」

一睨みで黙らせてしまうあたり、この人の実力は確かなのだろう。
それに、組、頭というからには、コイツを潰せば終わり、か。

「まぁ、そないなわけで君、堪忍なぁ…コレ、決まりやねん。やられたらやり返す」

ふらりと体が揺れた。
瞬間、目の前に迫る拳。
それを、身を捻って躱し、距離を取る。
強い、けど兄ほどではない。
これなら、なんとかなる。
箒を投げ捨て、懐にもぐり込み鳩尾目掛け拳を振るう。
手応えはない。
けれど、それも想定内。
真上から降り下ろされた腕を掴んで、勢いを殺さず、寧ろ利用して背負って投げる。
受身もとれずにもろに背中から落ちた修平さんの腹に踵を降り下ろした。
これは効いたようで、苦悶の表情を浮かべる。
追い撃ちをかけるように、殴る。
3、4発目で、拳を止められ、動きを止めた。
腕を振り切り、飛び退く。

「いやぁ…こりゃあコイツらが負けるわけや」

腹を押さえながら立ち上がる修平さんの顔に浮かぶ笑みは、最初と違い余裕の色はない。

「君は、見たところ小学生みたいやね。……ははっ。決めたわ」
「頭?」
「これより、俺は貴方に仕えます」
「は?」

膝を折り、俺に頭を下げる修平さん。
大の大人が、こんな子供に。

「驚く顔はまんま子供やねぇ」

グローブを外しながら笑う。
手招きをされたが、近寄るわけもない。

「俺は勅使河原修平、ぴっちぴちの高校生。遠山組の若頭やってます」
「遠山、組?」
「せや。他んとこと違おてヤクとか扱ってへんし、ただ純粋な暴力を求める奴等の集まりですわ」
「仕える、言うんは?」
「組の全権は親父のもんやさかいちょお違うんやけどな?俺が君の腕っぷしに惚れたんですわ」

一歩ずつ近寄ってくる修平さん。
手を伸ばせば届く距離に入ると、くしゃくしゃと頭を撫でられた。

「ま、よろしゅおます」

笑いながら頭を撫でる修平さんに、兄の面影を見た。



「ってな感じやで」
「がっつり省いたやろ」
「おん」
「修平さんの足の骨折った聞いてんけど…」
「足だけやないでー。俺も腕折れたしなあ」
「怖っ!」

かたかたと震える弟に、本当のことは隠しておこう。
箒ではなく錫杖で殴りかかったこと。
境内を血で染め怒られたこと。
抗争が起き、被害が大きくなる前に、遠山組の本拠地に兄と殴り込みに行ったこと。
兄に修羅が乗り移ったこと。
慕う者も、最初は恐怖に縛られていたことを。
ぶっちゃけ、俺だってトラウマなのだ。
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