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□3000hit 鈴井様へ
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かりかり、かりかり。
シャープペンシルの芯が、真っ白な紙に黒い軌跡を残しては音を立てる。
綴られる文字は止まることなく難解な数式を描き出すが、それを眺めるだけの廉造にとっては非常につまらない。
竜士がやっているのは学校の課題プリントであって、クラスは違えど廉造にも似たような課題は出されている。
廉造の手元では、一応そのプリントは広げられてはいるものの、名前が書いてあるだけであとは白紙である。
二人は課題をするために机に向かっていたはずであった。
竜士は確かに目的を果たしているが、廉造はまったく果たせていない。
そんな廉造を見かねてか、竜士が課題をするよう促すと、辛うじて課題をする気に見せていた右手の鉛筆を筆箱に戻してしまった。

「片すなや、やりぃ」
「頭パンクしてまう!」
「してまえしてまえ」
「ひどい!」

ちなみに、竜士は喋りながらも問題を解き続けており、プリントを裏返した。
どうやら特進クラスの課題は裏表らしい。
もう暫くは終わりそうにはなかった。

「ぼぉーん」
「………………」
「ぼん、ぼん」

机につっぷし、甘えた声で竜士を呼ぶ。
だがしかし、黙殺された。
それが竜士らしさでもあり、常なので、寧ろここからが気合いの入るところである。
廉造は竜士の死角で携帯電話をいじり、電話をかけすぐに切る。
かけ直してくれることを期待しているので、友人からの電話に答えてくれそうな人物にかけるのがポイントだ。

「電話鳴っとるで」
「え?」

わざわざ竜士に指摘させ、いそいそとズボンのポケットから携帯電話を取り出す。

「もしもし……あぁ、奥村くん」

わざとらしく相手の名前を言えばぴくりと動く。
軽い世間話をしていれば、うるさいと指摘された。
待ってましたとばかりに、廉造は電話の向こうで笑っているだろう彼に言った。

「今からそっち行くさかい話はそっからでえぇ?」

答えはもちろん快諾だった。
ちらと竜士を盗み見れば、冷静を装っているが手に持っているシャープペンシルはミシミシと今にも折れそうだ。

「ほな、奥村くんとこ行ってきますわ」
「課題片してから行きぃ」
「せやったら奥村くんとしますんで」
「…奥村と二人でやるわけあらへん」
「やってみなわかりませんて」

廉造はへらっと笑い、机に広げていた勉強道具をそこらの鞄に詰めて、席を立つ。

「いってきますー」
「志摩……」
「なんです?」

してやったりと笑いながら、さも不思議だと言わんばかりの表情で振り返る。

「行くな」

狙い通りの言葉を竜士が言う。
内心ではガッツポーズ。
けれどそれを悟らせないよう、目を見開く。

「行くな言われても…約束してもうたし」
「せやったら俺も行く」

いつのまにか立ち上がった竜士に抱きすくめられ、荷物を取り上げられる。

「奥村くん喜びますわ」
「………志摩」
「はい?」
「あんまし他の男の名前言いなや…」

ぎゅうと抱きしめられ、廉造は笑う。
自分から焼き餅をやくよう仕向けたがまさか、こんなにうまくいくとは思っていなかった。
ふにゃりと破顔し、両の手を竜士の背中に回した。

「分かりました…ほな、待たせるのも悪いさかい行きましょ」
「おん」

バックの代わりに互いの手を握って、旧男子寮を目指した。












「坊かっこえぇなぁ!」
「奥村が見とるやろが!」
「(なんで俺の部屋でいちゃついてんだろ…)」
「兄さん、兄さんには僕がいるからね」
「雪男…!」
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