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□遊園地に行こう!
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前哨戦


「お兄ちゃん!」
「なんだよ」

アジトにてパソコンをいじっていると、妹のモモがタックルをかましてきた。遠慮も躊躇もない奴である。

「これ、解いて!!」

ずいっと差し出されたのは所謂ナンプレ。真っ白なその紙には上級編と書かれており、9×9マスの四角形が並んでいた。数ヶ所のみ数字が記入されているものの、それはあまりにも頼りない宝の地図のようだ。

物を頼む態度ではないがオレは寛容だ。聞くだけ聞いてやろう。とまぁ格好つけてみたものの、いつも押しに負けて聞いてはいるのだが。

「マリーちゃんとやってたんだけど分かんなくて」

そう言われてみればモモの後ろには申し訳なさそうなマリーが不安そうにこちらを見ていた。なぜか彼女はオレとはあまり話してくれない。……嫌われているのだろうか。どちらにせよ好かれている自信は、悲しいかな、ない。

「景品がね、遊園地無料招待券なの」
「へぇ」

ざっと受け取った紙に目を通す。うん、簡単そうだ。妹とその友人の力になれるのなら解いてやるのも悪くは――。

「すごいんだよ、六名様ご招待!」
「だが断る」

なんだよ六名様って。なんだよ六名様って!

「えぇー!みんなで行こうと思ったのに!!」
「だからだよ!!」
「えっ」

行きたくないの? という悲しみを宿した薄紅色の瞳とかち合う。なんだこれは。オレが悪いことをしたみたいじゃあないか。

マリー廃のセトに見つかったら大変なことになる。なんだろう、殺されるんじゃないだろうか。爽やかイケメンスマイル的なもので。

「やるよ、やればいいんだろ……」
「さすがお兄ちゃん!!」

受け取ったシャーペンを手の中でくるりと回す。途端マリーの目が輝いた。憧憬の入り交じった瞳に見つめられるのは悪い気はしない。どうせならモモではなくこんな妹が欲しかった。モモから向けられるのは大抵は侮蔑だ。

「ルールは?」
「えっとね、1から9までの数字が入るんだけど。縦と横の列には同じのが入らなくて、太い線で囲まれたおっきい四角の中にも同じ数字が入らないの」
「じゃあ、こんなもんか」

順々に数字を埋めていく。1分も経たず全てのマスが埋まってしまう。これが上級編か。

全てのマスに過たず数字が入った紙を返却する。その紙を眺めたモモが一言。

「……お兄ちゃんはこんなにあっさり解いたのに……あんなに悩んでた私たちって、なんだったんだろうね」
「げ、元気だしてっ。ねっ?」

どうやら2時間をこのまっさらな紙に費やしたらしい。費やしてまっさらな状態というのはいかがなものか。

結局、オレは罪悪感に苛まれることになったのだった。これが、当選ハガキという名の死刑宣告を受ける一週間ほど前の話である。
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