04/23の日記

06:46
境界線の、その向こう
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「なぁ志摩」
「んー?」
目の前でふわふわと動く薄紅色を眺める。今は見えないが、雑踏を見つめる薄茶の瞳は、どうせ女性の姿を捜しているのだろう。見つけては追い、見失ってはまた捜す。その繰り返しで随分と忙しない。それでも、名前を呼べばふにゃりとした笑顔がこちらに向けられた。
『あの人才能あるくせに持ち腐らせてはるから』
そう言わしめる程の実力を、このいかにも頼りなさそうな男が持っているという。俄には信じがたいが、あの子猫丸が言うのだ、間違いないだろう。
彼は可もなく不可もなく、典型的な努力の人だ。自分にできる精一杯を十全の努力で結果という形にする。それは誰にでもできることだが、誰しもができるわけではない。
けれど、凡人の努力は天才の気紛れの前ではあっさりと崩落してしまう。畢竟才ある者のみが到達し得る領域が存在するのだ。
感じる虚しさは想像に難くない。悪意や他意がなくとも、彼らは凡愚を嘲笑い、その過程を揶揄してしまうものなのだ。
どれだけ積み重ねようとも、嵩む山はいつか崩れて空には届かない。けれど――。
「初めっから、空にいんのか」
伸ばしても求めても掴めない中天に。当たり前のように居座っているのだろうか。
「へ?」
きょとんと柔和に垂れ下がった双眸が見開かれる。その表情は歳よりも子供らしい。
「や、なんでもない」
「えぇー! 気になるやん!」
聞こえていなかったのなら、とうやむやに誤魔化す。そうすれば、志摩は唇を尖らせて不平を代弁するかのように両の手で机を叩く。それほど大きな音ではないがよく響いた。
本当に幼い挙動に、結局は騙されているのかもしれない。のらりくらりと曖昧に。敵も味方も作らず、これといって親しい人も幼馴染み以外に知らない。誰とでも仲が良く、けれど誰一人として彼を知らない。
「なぁ」
「もう騙されへんえ!」
ぷいとそっぽを向かれてしまった。まったく分からない。
「お前実は凄いの?」
「まさか。そんなことより杜山さん誘えたん?」
即答だった。へらりと志摩が笑う。その笑顔に若干の違和感を感じながらも、なんだかんだで話を逸らされていく。
「……まだ」
「えぇっ!? 早よせな取られて終わりやで!」
それはいやだと身を乗りだし、話は数日後に迫る行事へと移っていった。




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SQ!ねぇ、ちょっと!

あのセリフは志摩くん最強説浮上ととらえていいんですね?とらえちゃいますよ!

半年ぶりになるのでしょうか…あわわ

数日したら、こちらのサイトに支部の小説を移そうと考えています。
そうした際、雑多ジャンルになりますが、定期的に更新できるはず…

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