JOGIO

□その感情を知らない
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「勿体ぶらずに教えろよ、ボクは生身の経験が知りたく君に頼んでいるんだ!ほら、さっさと話せ!」
岸辺露伴、この奇人に偶然会ってしまったのが良くなかった。どうせ暇しているんだろう、ちょっと付き合え。とカフェ『ドゥ・マゴ』へ引き摺られてしまったのだ。露伴が他人を暇だと『思えば』それは暇だと決めつけられる。エマは仕方なく席に腰を下ろした。
「いいか!もう一ペンだけ言ってやる、マヌケ面でも分かる様にな!いいか!『恋愛』の定義だ、、、」
先まで獲物を見付けて爛々と輝いていた瞳が細く睨み付ける。エマは時が止まったみたく固まった。シパシパと瞬きを繰り返し、露伴の舌打ちに漸くハッとする。
「恋愛…ですって?露伴先生、アナタ…自分の経験を参考にすればいいでしょう?」
「―ッ!それが無いから!仕事の為なら、は…恥を忍んでエマみたいな女でも構わないとボクは!」
テーブルに拳を押し付けて、羞恥に顔を赤らめてしまった露伴。この性格上、尽くして愛する行為こそ無駄骨で馬鹿馬鹿しいのだ。それで何が自分に返ってくるのか?見えない『絆』なんて言ってみろ!とばかりに。人類ピラミッドの頂点は岸辺露伴と信じて疑わない様な男だ、エマは納得した。
「私が露伴先生を…好きと言ったら、どう思いますか?」
唐突に言葉をぶつけた。対面の男は物凄く不機嫌に唇を歪ませている。
「ふん、何も思わないね!むしろ迷惑だ、ボクの仕事に影響を与えるなら容赦しないからな!」
「ふふッ、」
はにかんだエマが俯いた。
「仕事熱心で真っ直ぐな先生…やっぱり素敵ですね。」
「何を言っている、エマ」
カッと目元を朱に染めて狼狽えた露伴は、この『感情』を知らない。急に彼女を見ると赤面し罵倒の言葉がつっ返えてしまった。胸の下、約15センチ弱だろうか、その奥が…ジクジクと痛い。痛みを伴いながらも離したくないと思った。一層強くなる、痛み。
「私帰らないと!お仕事頑張ってね、露伴先生」
さっさと珈琲を飲み干し帰ってしまったエマ。残された露伴は彼女の残像と残り香を無意識に記憶していた。
このボクが思春期の餓鬼みたく『トキメキ』を経験したというのか!?クソッタレ仗助や能天気な億泰と同等に。ほんのちょっぴり、エマが可愛いと思ったのは認めてやる。だがしかし、惚れたなんてトチ狂った事は無い。ボクは認めない、帰って『恋愛』の定義を書き留めなければいけないのだ。生身の経験から素晴らしい資料が作れそうで仕様がなかった。むず痒い感覚を忘れない内に、、、

岸辺露伴はその『感情』を知らない。

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