JOGIO

□シガレッタ
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決して大きくないソファ。その肘掛けに頭を乗せているプロシュートは、長い脚を窮屈そうに放り投げていた。夜だか朝だか曖昧になっている時間に彼はエマの住居へと雪崩れて来たのだ。
しかし、それだけ。只それだけの事は互いの心に今更なんの疑問も、抱かせない。身体を重ねようが愛を吐き出そうが、きっと無意味なのだ。悪戯にキスを繰り返すのは『心地好い』から。それ以上は求めない、エマもプロシュートも。
「今日は晴れそうだな、」
「やっと溜まった洗濯できそう」
「そいつぁ―良かった」
何てこと無い会話すら何時もの事。プロシュートはシガレッタを、ふっくら艶やかな唇に挟んでいる。吸っている訳ではなく、上下に揺らすだけ。
「プロシュート」
「ん、」
「あなた…マンモーニね」
マンモーニ(ママッ子)と言われ均等の取れた瞳が、横に動いてエマを捉えた。バカ言うなよ、俺がマンモーニ?と鼻で笑われた。そのギリシア彫刻みたいなプロシュートの美しさ。この部屋がまるで美術館かと思えた。
「ママンに甘えるバンビーノみたいよ?そのシガレッタ、おしゃぶり代わりでしょう、」
「これは…考え事してる時の癖だ、バンビーナ」
半身を起こして座り直すプロシュートが、ニヒルに口を歪めた。やっとオイルライターの炎が先端を、ジジジと焦がす。この国の男は「具合悪そうだな、大丈夫かい?」と心配するのと同じで、甘ったるい台詞を添えるのが当たり前と胸を張る。
「エマ…ママンか」
ハン、くだらねえ。とシガレッタを揉み消した。まだ半分も吸っていないプロシュート、君は無意識の本能に気付いているのだろう。火のないシガレッタを弄ぶ行為が何かを。プロシュートの心の奥底に眠る、それはそれは厄介な、本能に。

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