JOGIO

□メルヘン
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18:59
フーゴは左腕の時計を何度も眺め、深く息を吐いた。街中は街灯でロマンチックに煌めく。あと30分もあれば濃紺が空を包むだろう。
19:00
人生を、全てを支配する時計の一分一秒をフーゴは感じていた。もしこの針が電池切れを迎えたら、エマに逢えなくなるのかもしれない。睨み付けていた瞳がユラリと震える。
「お待たせ」
右半身がゾゾゾと粟立った。遅れて全身を駆け抜けた衝撃に、顔を上げる。
19:02
「エマ、来てくれたんですね」
「フーゴ?貴方が誘ったのよ」
「だから…嬉しくて。はい」
フーゴは掌から滲む汗を開いた。「ほら、恥ずかしながら緊張して」と眉が垂れ下がった。頭のテッペンを浮上する甘い囁き、それはエマに言ってあげたいとフーゴを煽る。
「私も楽しみだったわ、ありがと」
「いえ、」
パチン!と脳内で弾けたのは『今日の髪形とても素敵だよ』の破裂音。飛び散り、舞い上がるキラキラとした粉。本来ならエマの周りを飾るものなのに、己の不甲斐なさで無駄にした。自然と距離を縮めたエマの指が、触れた。
「あの!エマ!」
「あっ…ごめんなさい」
突然の叫びに接触した事を謝る彼女。違う…違う…違うんだ!ちゃんと言わなければ。勘違いされてしまう、早く言うんだフーゴ。なのにパチン!と無惨に弾けた言葉。エマは少し身体を離してしまった。その意味を理解した。なんて悲しく胸を押し潰すのか。ほんの数秒前に時間を逆戻りしたかった。否、すればいいのだ。簡単すぎて笑い転げたい。
「すみませんが、ちょっと時間を戻しますね」
「時間を?」
「見てください」
エマの前で左腕を掲げた。時間を調整するネジを、回す。
「あの!エマ!」
「な、なにかしら」
「さっきと同じ言葉でお願い出来ますか?時間を、その…戻したので」
彼女はクスクスと笑い、目に涙の膜を浮かべた。そうだったわね、と指を軽く触れさせるエマ。
「あっ…ごめんなさい」
パチパチン!全てが弾けて、、、
「良かったら…ぼくの、腕に」

突き抜けた。

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