JOGIO

□並列
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仗助は思い悩んでいた。
きっと承太郎が聞いたら「くだらねえ」と鼻で笑うのだろう。それでも悩みとは仗助の中で密かに、確実に広がり苦しめる。眉間を摘まみ力を込めてみるが、漏れるのは溜め息だった。
「どうした?仗助」
制服の衿を猫でも掴むが如く、グイと引っ張られた。まるで潰れた蛙みたいな呻きが仗助から飛び出す。悪い、たった一言で謝罪を済まされ、気に食わなかった。
「乱暴スよ―!承太郎さんは、」
「だから悪かったって」
どうにも埋められない差は、ますます仗助を置いて逃げてゆく。承太郎さんの背中を必死で追っても彼は、立ち止まってくれない。早く来い仗助…と意地悪に掌を後ろに差し出すだけ。顔すら見せてくれないのだ。それに追い付けない自分が情けなくて仕様がない。
「俺ばっか…」
声が震えているのか、いないのか?何も分からなくなる。承太郎は黙って仗助を見つめていた。
「俺ばっか、承太郎さん好きなんて」
「……」
「今日は帰ります、じゃあ」
承太郎さんは何も言わないんじゃない。心の中で自己解決する癖があるから、分かっている。考え込むと「口に出していない事も自覚が無くなるんだ」と彼から聞いた。だから、辛くない。
「おい」
承太郎は仗助の脇腹を突いた。驚いてフラリとバランスを崩したまま後ろに重心が、傾く。肩甲骨に当たる装飾品が痛かったが、仗助はやんわり包み込まれた。承太郎さんの匂いが、ツンと鼻孔に進入して絡み付く。
「お前、いつからマイナス思考になったんだ?」
「…なりますよ、あんたの事なら」
いくらでも。ドン底にすら簡単に突き落とされる。回された腕に爪を立て、引き剥がす。扉に向かって走った。走ったのに、承太郎さんは目の前に立っていて。
「何もそこまでしなくったって」
スタープラチナが横で揺らめいていた。
「逃げるだろ?」
俺から…と僅かに傷付いた表情が浮かんだ。仗助は直視出来ず、視線を下に反らした。
「俺は仗助が必要だと、思うか?」
酷な現実を突きつけられた。承太郎さんはまどろっこしい事が、嫌い。いつでも言葉に嘘や偽りを言わなかった。
「分かったら苦労しねえっスよ!」
「お前はヘタレか、仗助」
「はぃ?」
「お前がフラフラ変に悩んで、俺を勝手に引き離すんじゃあねえぜ?」
お前が必要だヘタレ、と笑った。

力強く胸に寄せられ、重ねられた唇。少しだけカサ付く何時もの承太郎。仗助は目の前で伏せられた睫毛をぼんやり見ていた。時たま震えて、それがパチっと開き、深いグリーンに捕らわれた。
「なに見てやがる」
「んぐッ、」
肉厚の掌が仗助の視界を塞いでしまう。その間に捩じ込まれた舌が蠢いた。咄嗟に引っ込んだ仗助の舌を追いかけながら絡める承太郎。前歯を擽るように舌先でなぞられ、鼻から抜ける、籠った声。
「仗助、舌ぁ出してみろ」
掠めた唇から伝わる振動に、素直に従った。必死で承太郎の動きに合わせてみるが、直ぐに違う動きをされてしまう。もどかしさを残し、離れていった温もり。
「っはぁ、承太郎さん」
息が跳ね上がり、目元に残る熱が怠い。

「自分だけだと思うなよ」
不安になったら吐き出せばいい。並列化できるソレを俺たちは持っているのだから。

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