JOGIO

□Call me
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なぁ、愛してる…と言ってくれ。

その愛らしい音色で俺の鼓膜を震わせてくれ。何時だか一緒に観たサイレント映画の、あの場面の様に。鼻と鼻を擦り合わせながらそっと、激しく、俺は君に突き上げて貰うのを望んでいた。それなのに君は裏切った。清々しい程に男らしく、美しかった。

電話が鳴っている。
それはベッドの下から聞こえる気がした。はたまたコートの中で聞こえる様な気もする。メローネはうつ伏せの状態で瞼を落とした。己のヴィジョンが弾けたシナプスを映した映像が現れる。毎分が如く脳味噌を巡り、派手に弾け死んでゆくのが分かる。
メローネは奥歯をギリリ、と噛み締めた。煩い電子音は止むことを知らない赤子を思わせ延々と鳴き続けている。苛立ちに任せて振り上げた腕がサイドテーブルを叩いた。冷めて酸味を増した不味い珈琲がカップごと床に落ちる。何時から置いてあったのかすら忘れた。落ちても尚、割れずに転がるソレは酷く不快で仕様がない。

なぁ、愛してると言ってくれ。
君以外の囁きは陳腐で無意味なんだ。必要ない、満たされない、むしろ殺意を覚えるんだ。笑えるだろ?滑稽だと俺を見下し嘲笑ってくれて構わない、そして愛してると言ってくれ。だから、愛してると言ってくれ。

電話が鳴っている。
耳に張り付いた自分の断末魔に聞こえる程に、哀しく無機質な音。愛してると言ってくれ、何度でも願う。イカれたブリキの玩具でも錆び付いて油がすり減るまで同じ動作を繰り返す。単純で哀れな行為を、俺は学習する事なく動くブリキと変わらない。鳴り止まない電話と大して変わらない。
嗚呼…きっとこの電話は俺の内なる叫びが起こした幻聴なんだと考えた。愛を与えるには余りにも幼く、愛を知るには限りなく無知で…

「愛して『くれ』ない…か?」
震える喉に力を込めた。吐き出した言の葉にメローネは目を見開く。おぞましい闇が脳味噌の皺を這いずって蝕んでくるみたいだ。
綺麗に切り揃えた爪を口内へ突っ込み、奥へ奥へ押し込めた。激しい嗚咽にジワリと泪が生まれハタリと死んだ。
取り消したい!愛して『くれ』と懇願した音を!思考を!弱さを…負け勝負のつもりは無い、だから、愛して『る』と言ってくれ、俺が愛して『くれ』と言うのは狂気の沙汰なんかじゃあない。君が悪いんだ、君は俺を裏切った。これっぽっちでも慈悲があるなら分かるだろう?

電話が鳴っているんだ
君からの電話が鳴っている
だけど俺は出る事が出来ない

メローネは耐えきれず激しく嘔吐した

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