JOGIO
□狙え
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奇譚曲~狙え
グイード・ミスタの場合...
僅かばかりの湿気を含んだ外気は開け放たれた窓から部屋の中を空気の渦で包む。ひらりひらり舞うレースのカーテンはヤニ色に染まり、ごわついた音を立てている。
グイード・ミスタは目の前の女がとことん嫌いだった。清潔な服装、艶のある頭髪、青白く血管を浮かせた膚、何よりグイード・ミスタに一切の興味を持たない女がとことん嫌いである。俺はその鎖骨から下の構造を想像し臍の形までも知りたいと思考が躍起になっている、というのに。
「いやねミスタ、じろじろ見ないで頂戴よ?」
突然女が口を開いた。
気怠げに煙草を縦に持てばテーブルにトントン、と打ち付ける。葉っぱを詰める動作は只の暇潰しなのだろう。それをジッと見詰めていればケタケタと笑い出す女にミスタは視線をさ迷わせる。
「エマ!何が可笑しーんだ」
「そんなに熱い視線で見るもんだから」
「見てねぇよ!クソ女が」
「怖い人...」
ニタと唇を吊り上げたエマ。胸の奥深くを抉る様な空気がミスタに刺さる。抗いたくなる衝動につい、愛用の銃口を指の腹で撫ぜ付けた。
「なあエマ、生意気な事ばっかし言っちまう可愛いお口だよなぁ」
「誉めないで頂戴。気持ち悪いわホントにね、」
「とことん生意気な女だな、お前の心臓にドカン。ブチ込むぜ?」
至近距離で構えた銃口をエマの胸元に押し付ける。触れている服やら膚やら骨を通して彼女の鼓動を感じる。柄にもなく僅かに早まるエマの音色。
「心臓をブチ抜いたら満点だぜ!」
ミスタは押し付ける力を込めた。
「折角アンタの下手くそな腕前を誉めてやれそうなのに、心臓ブチ抜かれたら誉めてやる事も出来ないわね」
「ならよーく見てろクソ女ッ」
ドギャン
鼓膜をジンと震わせる破裂音にエマは顔を顰める。先まで胸元に押し付けられていた銃口が頬の辺りで煙を上げていた。
「あちゃ〜!やっぱ俺、下手くそだな」
「.........」
綺麗に並べられた写真立ての一つが無惨にも粉々に割れている。あの写真はミスタが酷く気に入って勝手に飾ったエマの笑顔を写した一枚。
眉間を撃ち抜いている。初めから殺す気でなければ狙わないだろう場合だ。
「ホント下手くそね、私に貸しなさいよ。アンタで満点取ってやるわ!」
「外すんじゃあね〜ぞエマ!」
「黙りなさい。気が散るわ」
狙え!狙え!狙え!
カシャン
「あひゃひゃひゃひゃ!弾切れか?」
悔しそうに唇を噛み締めた女にジワジワと腹の底から沸き上がる歓喜。なあエマ。いつか必ずブチ込んでやる.....下手くそだと罵倒するお前を俺が抉ってやるよ。
狙え!狙え!狙え!
狙え!狙え!狙え!
狙え!狙え!狙え!
お前の中は酷く"ぬくい"んだろうなぁ。グイード・ミスタは下腹に疼く白濁の波を一人感じた。