Lollipop


□Oh!Boy
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絶好の外出日和はエマにとって飾りの景色に過ぎない、よく晴れた昼下がりに部屋の窓を全開に放てば、潮風が行き場を求めて部屋の中を駆け巡った。

テーブルには灰皿とコーヒーが並び、視線は情報誌の文字を追い掛けているのだが、自分の煙草の煙が今は邪魔だ。だからと言って消す事も決してない。紫煙をくゆらせて…なんて雅で粋な言葉があるけれど、実際は勝手気ままに立ち上るだけだと分かっていないのか。

暖かい気温に、ゾワリと全身を襲う寒気を感じた、否…悪寒である。全く迷惑だ、必ず訪問を告げる合図の様に、冷気を垂れ流すあの男の意図が理解出来ない。

吐き出す煙と共に溜息を付けば同時にインタフォンが鳴る。わざわざ出迎える義理もなければ迎える気もない、立ち上がりベランダの施錠をすると分かっていたのか、普段見せない俊敏な動きで回り込み、窓越しに腰を屈めてヒラヒラと手を振る無表情男と視線がぶつかった。

コツコツと鳴るノック音を無視しながらカーテンを閉め隙間から鋭い陽射しが差し込む、薄暗い、とも言えない不思議な空間で再びページをめくる。一通り情報を眺め終えると入れたばかりの2杯目のコーヒーが既に冷めてしまっている。一口含めば、どす黒い液体がヒヤリと口内を刺激し、苦味と酸味が一度に訴えてくるみたいだ。誰かのように…

勢いよくカーテンを開ければ窓に寄り掛かり、胡座で未だ居座っているクザンに声を掛けた。アイマスクを引き上げながらチラリと振り向き小首を傾げている。聞こえない振りを決め込んでいるのは承知だが、部屋が冷える嫌がらせは耐えられない為、仕方なく鍵を外す。

『市民に迷惑かけないで下さる?』

『入れてくれりャあ、迷惑かけないよ』


嗚呼、腰痛えェ。なんて嫌味を交えながらソファーになだれ込んで来た。


『その執念、仕事に向けなさいよ』

『エマと仕事を測るなんざ野暮でしょ。マメに来てんのに喜ばれねェなんて…』

ヘラヘラと笑いながら何か言っているクザンを放置して新しく入れたコーヒーを持ち、向かい側に座るとズリズリと膝を擦りながら近付いてきた。片手で髪を触る仕種は優しくて強引で、気まぐれに変わる。


『エマが居ないと俺の人生つまんねェ』

『饒舌ね、他の子に言ってあげなさい』

『あらら、高いのよ?俺の口説き』




−黙って言わせときなさい−

それが男の幸せって形


−黙って俺に愛されなさい−

それがエマの幸せって証

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