Lollipop


□ルージュはトリック
1ページ/1ページ


全ての物を弾き返し、地の果てへ薙ぎ落とす、渦巻く闇をも飲み込む、高らかにそびえ立つ要塞を目の前に嘲笑うのは朱でも紅でもない赤が色彩を飾る無の景色。


華奢なハイヒールは艶やかで赤

細長く伸びる指先に飾られた赤

甘ったるい吐息で挑発するも赤



古めかしい映画の世界から飛び出したような優雅な振る舞い、時折俯く表情に色香、流れる視線はトリック。

カツン、カツン。と迷いない歩みは海軍本部。正面入口を真っ直ぐ向かえば、威圧的だがその反面、爽やかな制服を着込んだ海兵が伺うようにチラリと寄越す視線。

『お忙しい所ごめんなさい、大将青キジと連絡取れるかしら?』


この場に不釣り合いな女と、紡がれた名前だけで目深に被った帽子からは動揺が隠しきていない様子だ。くるりと逸らされた瞳を見つめていれば、待つように言われ男は慌ただしく建物に引っ込んでゆく。





『青キジさん、正面入口に女性−』
『あぁ、オーケィ。今行く』

途中で遮られた言葉は飲み込まれた。机に突っ伏す青キジの手元を覗けば、ペンで繋がれた己の理解を越えた模様。荒々しく繊細なそれ、のたうち回る線を離し満足そうに書いた紙を部下に見せ「惚れちゃった?」と言いグシャリと丸れば、男の胸に強く押し付けて部屋を抜け出した。


室内に篭っていたお陰で、陽射しが痛い程に突き刺さる。自然と深くなる眉間と、心地良い潮風が全身を撫ぜて遊ぶ。






『悪い子、なにチャラこましてんだ』

『−ッ!大将!!』

『あら、彼に構ってもらってたのよね?』


近くに居た、と言う理由で捕まり手なずけられていた海兵は、エマの発言にビクッと跳び上がると持ち場に駆け出した。周りをうろ付く部下の好奇な囁きがダイレクトに流れ込む。当たり前だエマの格好は目立ち過ぎる、本部の最上階から見渡しても一発で見付けられるだろう。


『なぁに、見世物にされたいのか?』

『よく言うわ、忘れて行ったくせに』

『エマの部屋に何か忘れたか?』

ごそごそ、と時計を鞄から取り出し右腕に巻き付けられた。参った、抜け出した時に確認する機械は、無いと気になるが…有っても時間に追われ、落ち着かなくて困る物でもある。


『こりャあ、騒がれるぞエマ』

『クザンには勿体ない美人って?』



『言えるもんならなぁ、上等じゃない』

華奢な身体をグッと引き寄せ、真っ赤に誘うルージュに口づけ。ダラダラと引き伸ばすのはスマートなキスじゃない、触れて一瞬のキスは何よりも絵になる事を見せ付ける。


俺じゃないとエマは輝けないよ。そんな気障な台詞を並べても、うっとり見上げる君に俺の勝機は限りなくマイナスに近いゼロ。膝を付き手に落とすキスの一つさえも断る君。派手な赤で魅了するのは俺のために存在する。否、エマが与えてくれている。


全ては俺を引き立てる赤。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ