Lollipop


□構想曲
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『いや、移さないでッ』


繰り返される拒絶の言葉は決まった時間。










『ハッカなんて吸わないで』

『まぁ、あれだ…我慢しなさいな』

『好まないものは、変えられないわ』

口を尖らせ可愛いげのない台詞を吐くエマは煙草のメンソールが嫌いだ。隣で吸うだけでも顔を顰める程に。その唇を重ねようとすれば気を立てている猫が如く、爪を向け威嚇してくる。恋人とはいえ傷付く態度だ。


『女の子なのに俺より男らしい好みで、参っちゃうわなァ…』

『そんな事気にする男じゃないでしょ』

『さァな、どう思う?』



彼女が呆れたように煙草を取り出せば無機質なジッポーから始まる、複雑に絡み始めるメドレー。鳴らせば香り強く、一気に広がるのは麻薬のそれ。目まぐるしい副作用に弾ける幻覚、そんな事は分かっていた。自我を保てない。認めたら僅かばかりのプライドが音を立て崩れ落ちエマを壊してしまう。だから、だから…、引ったくる様に指から抜き取り、深く深く肺に吸い込む。慣れない刺激に喉が、脳内が溶けだす脱力感。癖の強い香りの後に追い掛けてくる苦味。自分には強すぎる、余りにもエマをダイレクトに感じてしまう…この時を。

優しく啄み、形を確かめながら吸い上げ、むず痒い程の甘噛みをする。まるで愛撫の様な口付けを。たかが煙草に振り回され熱を持たされる己に苦笑いが漏れた。だが嫌いじゃない、全て貪り食いたくなる熱が巡る。




『エマも煙草も癖が強い。あく抜きしてやるから、イイ子はベッド来なさい』





それは、なけなしのプライド。

溺れているなんて君が知ったら、自分から離れてゆくのは経験と勘。たゆたう紫煙は掴めず消える、儚く、有害で、全てを蝕み喰らってしまう。

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