Lollipop
□共愛?Honey
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ポツン−
小さな空間でやけに響く。纏わり付く反響は追い掛け、混じれば混濁。一滴の雫だけがジワジワと波紋を重ね望まない世界を広げてゆき元の形に吸い込まれる。水を弾く己の膚の不思議を考える。只ぼんやりと廻る思考回路を割り込んだのはドア越しに感じた気配。
叫びたくなった。
いい加減な理解をしたのか受け入れなかったのか、どうせ私の言葉なんて今更なんの効果もないのよね?言い付けを守り貴方の機嫌に合わせて、笑ったり頷いたりしか許されない。彼は当たり前の様にリビングのソファーで持て余す長い足を組み酒瓶を傾け喉を上下させている。目の前を素通りしても、考えの読めない視線だけを向けられ、直ぐに逸らされた。
『昨日、言ったはずよね』
『想い出に浸ってたまでよ、君との』
白々しい言葉に皮肉か嫌味か。部屋を眺める瞳に温度はないが、僅かに上がった口角を見て鳥肌が走る。彼を取り巻く怪奇な空気と痛々しい存在に、危険回避と鳴り響く鐘。
『なぁ、覚えてる?あのペアグラス、君が一つ落として割ったの』
顎で示す棚には使われなくなった曲線が美しいワイングラスが、今は輝きどころか濁り冷たく置かれているだけだ。
『このソファーも、赤じゃないと嫌だって言うから探し回ったよなァ』
『あぁ、俺がキレて皴入れたっけ』
硝子テーブルに入る亀裂を指で撫で付けて本当に想い出を廻らせているらしい。このままではバスルームから寝室まで延々と聞かされるかもしれない。男は今まさに外では見せない性を執着を露にしている。呼吸が、上手く出来ない。
『や、めてよ』
『お前は懐かしくない?こんなにも2人の熱を感じる、この部屋に』
『何も感じないから、もう来ないでって言ったんじゃない…』
『俺はダメ。全部が愛おしい、傷さえも』
『不快よ貴方との想い出なんて、今更』
分からねェなぁ。呆れたように立ち上がり、酒瓶を揺らしながら壁に追い詰められた。目線を合わせるように屈まれ隅々まで巡らせてくるのは冷たい瞳。熱い吐息と共に吐き出される冷気は、全て私に向かって流れ込む。苦しくて痛い程の愛なのか。
『俺を置いてくの?ねぇ、殺していい?』
『それか、オブジェとして飾っていい?』
『俺を不安にさせるなよ』
そんな寂しい目、クザンいつ覚えたの?
『こんなに愛せるのは俺だけだ』
そんな甘い言葉、クザンでも言えるのね
『我が儘な事は言わないの』
そんな事、微塵も思ってない顔ねクザン
『いい子にはキャンディあげるよ』
そんな宥め方、本当にクザンらしいわね
『よく考えるんだ。さぁ、言ってご覧』