Lollipop


□こっち見てプリーズ!
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挿絵なしの空想世界。読み取り組み立て隙間を埋めるは想像、イマジネーションか。自分のストーリーがあるならクザンのストーリーも存在するのが今更な事実。都合よく取り付けたオプションで不動なるファンタジーは築かれる。なんて素敵なの高鳴る鼓動は抑え切れない、童心に戻らずとも今なら空へも飛べてしまいそうだ。



『後でいいよ、俺』

一番の山場を迎える手前で隣に寄ってきたクザン。何かを持っている拳が読み掛けのブックと視界をユラユラと遮ってきた。溜息を吐き出し文句を言ってやりたくなる、この先の展開を分かっているに違いないだろう邪魔をするタイミングが完璧なのだから。

パステルブルーが覗いた拳の隙間からコトンとブックを伝い膝に滑り落ちた。似合わない小さなそれは彼の苦手な動作で作業なのだ。集中が切れてしまった今、栞を挟みポフンと閉じられた物語。急ぐ必要はない、じわじわ嵌め込まれるピースを脳内で眺めるのも乙な事。


『あらら、邪魔したみたいだな』

『気になって、集中できないもの』

『こればっかりはエマじゃねェと』

まるで私が匠とでも言いたげなクザン。指を引き寄せパチンとリズムよく。中指から始まる気分次第の気まぐれなランダム。器用なくせしてクザンが苦手な爪切り。短く整えられるのを只じっと上から見つめている姿は何とも心を擽られる。


『人差し指、まだ長くねェか?』

『深爪すると痛いわよ?』

『構わない。気になんだろエマも』


早く切って。と指を顔に近付けてくる。明らかに深爪だが出来栄えに満足しているらしい。爪を掌に擦り付け切り残しがないかの確認をするクザンの癖を知った時は笑いすぎて筋肉痛を起こしてしまった。水に付けて食べ物を確認するアライグマにそっくり過ぎて、否きっとクザンは爪を研ぐ獰猛なネコ科かもしれない。


『上手いな、エマは。サンキュ』





そして始まるクザンのShowTime。

短い爪では引っ掛からない剥がせない開けられない力が入らない、エマやってと始まる、それは構って欲しくて気にかけて欲しくて。キッカケを私に作らせるクザンのストーリーなのだろう、ヒロインはもちろん私であって欲しい。読んでみたいなんて我が儘言わないから、きっと、きっと私だけを。

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