Lollipop


□ベリーの憂鬱
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くるり、クルリ、くるくる。



お気に入りのレコードから流れる、しゃがれたハスキーヴォイスは途切れ途切れに繋がるJazzのリズムに溶け込んでいた。抑える事なく漏らした溜息この哀愁は自分にピッタリだと流して実感する。

期待したのが悪いのか。いやハッキリと聞いたクザンの声で待っててと。カレンダーに付けてある確かな印しは寂しさの余り自分で妄想した結果だったのか。得意のケーキは冷やされ飾り付けられるのを健気に待っている。それ以上に待ち望んでいる私も健気なのか脳タリンなのか分からない。


2人で使う為に買い替えた大きな灰皿。今はエマの銘柄だけが醜い吸い殻の姿で埋め尽くされてしまっている。貴方は言った事を忘れてしまったのかしら?それとも私を宥める為に守る気のない約束をしただけなのかしら?あと一周で終わってしまう一日。外に飛び出して蠢く海水に沈んで命を絶とうとも助けてくれないわね。クザンは海の嫌われ者そして私に興味が無いの。その他の一人としてカウントされているだけ唯一の救いは私が女だって事かしら。

くだらない事を一人グルグル廻らせるのも頭を使わなければいけない、積み上がる一方の煙草はクザンを待っている時間に比例している筈。食べて貰えないケーキが可哀相でナイフを滑り込ませれば濃厚なチーズの香りが嗅覚を擽る。今から全て食べれば無かった事になるのかもしれない。


今日を巻き戻す。虚しさと愛されたい気持ちを一緒にと込めたナイフの鋭い先端が皮膚に引っ掛かった。ぷくりと滲みベリーソースよりも先に鮮やかな朱を注してしまった。数滴の自分の色がこんなにも毒々しいなんて不快であり引き付けられる。



『あらら、エマのヤラしい色』

物音一つなく背後に立ち飄々と見下ろしているのはクザンだった。驚いて跳ね上がる鼓動で今にも抱き着いてしまいたい、こんなにも愛してるのにと泣ければ素直で可愛い女でいられるのに。無駄に生きてしまった人生で学んだ面倒な女は捨てられるというジレンマが邪魔をして飲み込んでしまい溜まるは嫉妬のみ。


『それ…エマ、まさか先に食べる気だったとか?』

『悪い?時計の見方も忘れた貴方に、恨みを込めて食べるのよ』

『だからってエマの血?いやいや、間に合って良かった。うん』

憎たらしく刻む壁の時計に目を向ければ後り10分の奇跡。ケーキの甘ったるい匂いよりも強い彼のローズは愛された誰かのマーキングだろう。クザンにローズは何て不釣り合いで下品な香りなのか…隠す必要もなく歪めた私の顔を見下ろすクザンに引き寄せられ勢いに任せ腹部に鼻がぶつかる、より強いコロン。とことん無神経な男に潔さを感じた私もネジが数本は飛んでいる。



『美味いじゃない、流石。隠れてないけど醜いエマのスパイスが決め手だな』

カットされた毒々しい朱のソースが彩る白を口に運ぶなんて、私の気持ちを弄び愉しんでいる。ケーキも望んでない飾りを付けられ隣でベリーも泣いている。

『やっぱり嫌な人ね』

『君には刺激が強い、』

だから、あげない。と指で掬われたソースが漸く飾られた。歯型の付いた歪むソレは私に似合っていた完璧にはなれないのだと嘲笑う様に。

チーズとベリーの繊細なコントラストは彼の五感を満たす事はない。そんな物で満足してくれない貴方は、いつも意地悪に包み込んで愛のない言葉を囁き捕らえて離さない。

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