Lollipop
□魅惑の仕掛け
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『クザンてケーキ好きだった?』
『いや、エマが食うから』
そんな事言うなんて可愛い人ね、なんて思ったら大間違い。そうねナメすぎてたわ、貴方が中毒者だってことを…
愛らしい形とビビッドカラーは純白のステージに鎮座する。それはクザンの視線、興味を集めていた。アンティークの小皿と相成るティカップの蒸気は空調の流れに逆らわず向きを変えながら馨を撒き散らす。
未だ眺めているその瞳は、全ての情報を引き込み、刻み付けているみたいだ。伸びた指が小皿をクルリと廻し別の角度から眺める、まじまじと。一通り視覚を満たせば次のステップ。先端を突いたり撫ぜたり。長い指で押して潰された朱い果肉よりも、クザンの赤い舌がペロリと掬う。
『はぁ、やっぱりな』
『…クザン?』
その姿は異様で奇行なそれ。人気の少ない洒落たカフェで似つかわない行為。流行りの曲が流れる有線はBGMの役割も果たせていない程に遠慮気味だ。その不適な笑みを覗き見している周囲すら今のクザンには興味がないらしい。
『興ざめだ、潰れて。無力すぎる』
『存在意義が違うわ、ソレ』
『毒でも持ってれば愉しめるが、』
グリグリと押し込まれる無力な果実。純白のステージから押し出され、涙を流す様に濡れる果汁が、殺人現場と姿を変える。
『エマのと交換して、』
『ケーキに埋もれた苺を食べさせる気?』
『その中が知りたい。いいだろ』
『粗末にするからダメよ。嫌』
己のケーキから逸れた意識を私のモンブランに向けてきた。幾筋にも絡み合い高く飾られるペーストの中を説き明かしたい衝動と、思い通りに成らない苛立ちが漏れ出し、突き立てられた指が殺人現場の先端を潰し始めた。グニャリと歪めば、細まる目元。
『エマ、その中どーなってんの。知らないのは俺だけだったりして?』
『もう、分かったわよ。交換するから』
『あぁ、早く観てみたい』
全ての仕組みを理解し把握する狂気。追い詰めては壊す。呆れる程の破壊ジャンキーは、妥協を知らず貪り尽くす。最高のフィナーレを演出するまで。