Lollipop


□ungraceful
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誰かを愛する気持ちって、ほっこり暖かいと聞いた。甘酸っぱい初々しさも添えて、足りない刺激はビターな苦みを代償に…それだって少しよ、ほんの少しだけでいいんだって。ねぇクザン、これって違う愛なんだと思うわ。だって私には感じられないもの。





余計な飾りを嫌うクザンの部屋は常に生活を感じさせない寂しい場所なのに、モノクロの世界を壊すカラーは溶け込もうとせず存在を主張していた。あべこべね、なにもかも。棚の一カ所が本来の物を寄せ付けないでいる。無理矢理に詰められたクザンの本が哀れだわ。

『悪趣味な女ね』
『それだけで分かんのか…スゲェな』
『どこがいいの?』
『…さぁ』
『この女よ!』
『落ち着きなさいよ、エマ』
『ねぇ!クザン』

読みかけの本に目を戻していたクザン。なんてムカつく男なの、違う女が縄張りだと置いてった小物が目立つ部屋に平気で私を誘うなんて。初めて感情的に動いた、ダストボックスを引きずり寄せ蓋を床に投げ捨てる。

『かっかして、可愛いな』
『うるさい!』
『はぁ…静かにやれよ?頼むから』
『出来るわけないでしょ!』
『冗談だろ』

私を逆撫でるしか出来ないのか、無視を決め込んで次々と邪魔物を放り投げた。クザンは呆れ顔で見ているが今の私は止まらない。キッチンから鍋を取り出し香水やクリーム、パウダーをひっくり返して入れた。強火でグツグツ煮込めば一体となり姿を変えた中身に気分が悪くなる、どぎつい匂いが部屋に充満して怒りがピークに。

『あららら、なんて料理だ?』
『壁に塗りたくってやる』
『手伝うか?』
『こっち来ないで』
『はいはい、』
『この人で無し!』
『エマが言ったんだろ』

掻き混ぜていた熱々の鍋を壁に投げ付けた。粘着質な液体がゆっくり落ちゆく様を見ても収まらない。むしろ腫れ上がって制御できない、無駄な時間だったわ…こんな場所早く出なきゃ、醜い嫉妬を表にしてもクザンは楽しげに見ているだけなんて。

『もう来ない』
『まだ足りないんだろ?』
『…さよなら』
『もっと不様に晒せよ、』
『何言ってるか分かってるの!?』
『エマが好きだって』

耐えられず玄関まで走る私に囁くクザンを振り向いてはいけない。分かっているのに扉が開けない、指が震え身体の力が入らない馬鹿な私。近付く気配は穏やかな空気を纏っていた。

『もっと怒り狂えエマ、そうしないと俺が満たされないだろ?』

『…苦すぎるの』

『甘ったるいのは俺だけで充満』

『幸せに、なりたい』

『エマは欲張りすぎる』



何も暖かくないじゃない。苦くて苦くて甘くなんてない。あれは嘘だったのね。愛の深さをクザンは教えてくれるけど本当は違うのよね?理解できるのに私は洗脳されきっている。貴方の言葉無しでは区別や善悪が付かないまで。クザンの愛が欲しいと願った愚かな女の最期。

許して…それでも縋ってしまう私を。


『愛してくれる?』
『ほら、欲張りエマ』
『クザン捨てないで』
『まだエマは分からないか?』

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