Lollipop


□ロリポップ
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懐かしい記憶が蘇ったのはエマの部屋にぽつんと転がったロリポップひとつ。テーブルには見慣れた煙草の箱と使い込んだ年月に比例した様々な傷が目立つZIPPO。腕を伸ばし転がるそれを拾えば、記憶よりも随分と小さく軽いのは俺の成長を物語っている。それとも当てにならない曖昧な記憶のせいか。どちらにせよ興味が尽きない、抑えられない衝動は迷わず口元に運んでいた。

見た目と違う甘ったるさに顔を顰ていた。好奇心は薄れずとも変わっていた味覚に何故か胸が締め付けらる。こうして全てが変化を続けてゆく内に消えてしまうのは必然か。時間の流れに抗うつもりは毛頭ないがやり切れなさが渦巻く。

『まさしく矛と盾だわな』

大人は知識を付け過ぎている、受け入れるのに慣れ過ぎている。もがき悩み葛藤しながら最後は諦めるのも知恵があるからこそ。舐め続ければ先端が薄くなり柔らかい口内を脅かす凶器に変わるのを俺は知っている。だからどうだと言うのか些細な恐怖心と仕組みを理解しているに過ぎないのだから。回避するための術は人生で学んでいる。

『センチメンタルね、クザン』
『おいでエマ、抱っこしてあげる』
『させて、じゃないの?』

意地の悪い事を言うもんだ。素直になれない今エマの双眸に映るのは情けなくてカッコ悪い自分だった。常に完璧な姿を保っていた筈なのにエマだけには偽りの余裕を探しだし舐めとって欲しいと願う。矛盾のない日常とは存在しない、存在するからこそ滞りなく流れる世界に踏み込めないでいる。

『ロリポップを選んだくせに…』
『うん』
『飽きて噛み砕いちまった様なもんだ』
『哲学とは…クザンの口癖よ』
『只の言い訳だがな、』
『永久不変な知識を求める行為。』
『翻弄されっぱなしよ、俺』
『それがクザンを造りあげる』

別に大袈裟な人生は望んでないが自我を貫くには必要なのだ。目の前に壁が現れても進まなければいけない、例えよじ登る以外の突破口しかなくとも落ちるのを覚悟して足をかけるんだ。その先に続く道があるのかすら分からない不安を押し込め知識を絞り不安定な矛盾と自我を。

『エマの創造は?』
『クザンの背中と助言を参考に』
『あらら、ずる賢いじゃない』
『違うわ…』
『俺が立ち止まっても?』
『私も立ち止まるの』
『…オジサン責任重大ね』
『支えてあげる』

混濁した世界に見えていたが俺はエマと一緒にいるじゃないか。怯えていたのは、拒絶していたのは臆病になってしまっていたから。でも誤った場所に入りこんでも君を導く事に間違いはない筈だろう?俺を造り滅ぼすのはエマでもあるんだよ。


エマ、堕ちるなら…虚無までも2人で。

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