Lollipop
□ポケットチーフ
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小洒落たレストランの一角に仕切をさせてテーブルに並ぶ料理を味わう事なく詰め込んでいるクザン。図体もデカけりゃ口もデカい、必然的に一口もやっぱり多いんだなとサラダを突きながら見ていた。食べ方は豪快のくせに行儀が悪くないのは何故だろう。
「昨日ね部下に言われたのよ」
「なんて?」
「いや、まぁ…エマの事」
肉を刺していたフォークを口から引き抜き皿に置いてワインを傾けながらそんな事を言われた。その言葉に心中穏やかではない私は居心地が悪くなった。
「エマは俺の好みと違うって」
「それを私に言うの?無神経…」
「確かに、でも好きだから仕方ないよな」
スッと細めた目元はワイングラスの縁を追っている。クザンはグラマーに弱いのは私だって知っているスケベだし。周りが不思議がるのも頷ける、そして私の心は派手に崩れ落ちるのだ。
「じゃ別れましょ」
「違う違う!エマが好きだから仕方ないって言ったのよ」
「頭痛くなってきたわ…」
あらあら大丈夫?なんて席を離れ隣に膝を付いたクザンだが、誰のせいだと言ってやりたくなる。背中を摩り優しく手を握って覗き込まれた顔に結局私は弱いのだ、愛おしくて堪らなくなる。困ったように眉間の皺が深くなり光に反射する瞳に吸い込まれてしまう。
「可愛い子ちゃん、愛してるよ」
「私の方が愛してるわ」
背中に置いてあった手で頬を撫ぜられると冷たさが私の体温を一気に奪ってゆく。きっと一生クザンに温もりを与えてあげる事は出来ない、そう思うと胸から込み上がるのは苦しい感情とやるせない想いだった。
「冷たい」
「暖かいよ、エマが分けてくれる」
引き寄せられ額に触れた唇はやっぱり冷たかった。下に下がり頬に触れる唇もやっぱり冷たい。一度視線を合わせられ重なる唇から絡まり始めた舌は私と溶け合い温かった。この決して高くない熱が私たちだけの形。
「部屋で暖めてくれる?」
「もちろん」
「おいでエマ、帰ろう」