Lollipop


□嫉妬の代償
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気立ての良さそうな女の前にはティーカップが置かれている。その中の黄金色に染まる液体は僅かに波紋を作っていた。白く細長い指先は綺麗に手入をされ淡い色が乗っている。それは彼女の心境を表すように爪がテーブルを幾度となく弾いて引っ掻くのを繰り返す。

「待ちくたびれた、デートしようぜ?」

勘弁してほしい、待ち合わせをしているのは私であってドフラミンゴではない。したがってデートなんか行く訳がないのだ。それなのにカフェに居る私を見るなり押しかけて仕舞いには派手な男がパフェを食べる奇妙な光景が出来上がっている。

「彼が来る前に帰ってよね」
「フッフッフ!来たら帰ってやる」
「お願いだから…」

目の前の男より待ち人の方が恐ろしい私は焦りが募るばかりだ。気持ちを汲みながらもパフェに乗るブラウニーを指で摘みアイスを丸ごと口に放るドフラミンゴ。物を食べていても吊り上がった表情を崩さないのは不気味で嫌になる。

「パフェご馳走するから、ね?」
「んぁ…お出ましだぜ!フフフッ」

気配を感じてか黙々と動かしていた手を止めて細長いスプーンを容器に投げ入れた。遠くで誰かが店に入るベルが鳴ったと思えば背後から急に肩を掴まれ跳ね上がる鼓動。

「テメェ何してる、なぁ?エマ」
「彼氏殿が遅せェから口説いてたんだ」
「言葉は選んで発言するんだな」
「安心しろ、エマとの約束だ帰るぜ」

業と意味深な事を言ってドフラミンゴはさっさと行ってしまった。ゆったりとソファーに座るクザンは食べ残しのパフェを忌ま忌まし気に見ている。

「勝手に押しかけたのアイツよ?」
「お前が相手にする事ねェの」
「したつもり…ない」

やっぱり冷たい目で棒読みな言葉を向けられる。クザンは背もたれに掛けたジャケットから取り出した煙草を親指と中指で弾くと一本抜いた。必ず口の右端に挟むのは彼の癖…スリムなライターを握り左手で風よけの壁を作り火を移す仕種は何度見ても私の心を高鳴らせた。見せ方を知ったような無意識に傾ける首の角度は誰もが溜息を漏らすだろう。

「まぁ、遅れた俺も悪いな」
「…クザン」
「爪、変えたのか」
「今日の服に合わせたの」
「可愛いねェ、ピンクですか」

分かってる、それは嫌味として言われたぐらい。さっきまでピンクを纏った男が居たのだから。こんな時に限ってクザンが身につけるカラーを選ばなかった自分が嫌になり俯いてしまう。爪で塗り立てのマニキュアを引っ掻いた。

「エマ」
「はい―ッ!」

顔を上げると唇に押し付けられたパフェに驚いた。僅かに開いた隙間を滑り込む甘ったるさに五感が刺激される。それはドフラミンゴが残したチョコレートパフェだった。

「あーぁ、食べちゃったねエマ」
「何するのよ」
「アイツのパフェを食べさせたの」

何故か愉しそうにしているクザンはテーブル越しに伸ばす腕を楽々と私の後頭部に回した。無表情で近付いた顔は重なり舌が容赦なく私の中で暴れる。最後に唇をひと舐めして元の位置に座ったクザン。


「アイツはエマと、俺はアイツと間接キス…エマは俺と甘いキス」

「アイツとは望んでないわよ!」

「イケない気分になるだろ?」


やっぱりクザンを怒らせたら駄目だ。とんでもない形で嫉妬を表す男に思考が抜けてしまう。甘い痺れを残され渇きに飢えている筈が熱っぽく見つめて視線で縋り付く私。



この刺激、混ざれば心酔。

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