Lollipop


□ゼロの概念
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「ねぇクザン」

「ん?」

「私…認めたくないの」

「いったい何を?」


何処か上の空なエマは自分の指先を見つめ、気怠げな表情で黙り込んだ。クザンが視線を向けるが動かない彼女はネジが切れたブリキの玩具みたくなっている。巻き直すのは俺の使命か否か。なぁエマ、お前はどうして欲しいんだろうか。視界を掌で遮ろうとするクザンを彼女は睨み付けた。

雑音が混じるラジオは古い曲を延々と発している。


「ゼロの概念、」
「また小難しい事考えてんのね」
「無を存在させて認識させたのは」
「不満なのか?」
「数字的じゃなくて、もっと哲学的に」

ゼロは何物にも変化しない。ゼロは希望か絶望か。ただの数字か記号か。神の存在は虚像だと言う人もいる、神を信じる人もいる。それがゼロの概念ではないのか。違うのか。

「元々ゼロは認識されてたと?」
「神の存在を認めた人間の領域かも」
「なら俺は認めた一人だな」

いや、やめてクザン。
笑わないで…不気味で息が苦しい。どうせ貴方も偽善者なんだから。神なんて信じていないでしょ、だってクザンの思考を流れるのはどす黒い憎しみだって知ってるわ。憎悪の塊に蝕まれた果実。貴方はトロトロに腐敗して悪臭を撒き散らす林檎の様で、染み出した果汁を塗りたくる無骨な指はすっかり汚れきっているのよ。

「なに怯えてんだエマ」
「来ないで」
「酷いね、傷付くじゃないの」
「お願いだから」
「俺を理解してよ。誰も分かってくれない」
「当たり前じゃない」


クザンはクザン、ゼロなんだから。
肯定と否定を繰り返す内に己を見失ったのよ。
誰も貴方を救えない、自分を救えないのと同じ事。


ねぇ、気付いてる?
初めからクザンの事を言ってる私に…

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