Lollipop


□日常的非日常
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天気予報の通り外は雨。
独り湿った部屋に居るのは酷く淋しかった。
傘も差さず誰かの側で雨宿りも悪くない…
それ程に虚しさが込み上げている。

あの時、君に言えなかったサヨナラは瞼を閉じれば直ぐ思い出せた筈なのに。
焼き付いた昨日までは徐々に俺からお前を奪ってしまう、もどかしさのループ。
君は確か、エマだったね?ぼんやり浮かぶ名前を繰り返し呟いた。
忘れたくないのに俺の脳味噌は排除したくて堪らないラシイ。

「顔、見せなよエマ」




ベッドで野暮な話はうんざりするだろ?
愛だの未来を今語るのは止めにしよう
高級娼婦と違うなら口を閉じるんだ
そして挟んでいる煙草を消してくれないか
シーツに火種が落ちてしまう前に…早く




「なぁ、俺は此処にいる」
「さっきから何してるわけ?」
「エマを失った練習」
「…呆れた」
「更に愛しくなってた」
「とんだロマンチスト野郎ね」
「あららら、」

すっ惚けた顔しているクザンは深く考えていないだろう。気障な性格は暇潰しの遊びにも反映されている。
私が死んでも彼は哀しまない。
シナリオ通りの展開が予想できた。
泣けない私の代わりに血糊の涙を最期の死に化粧で飾ってくれるだけ。
やっぱりあんたはロマンチスト野郎だ。

「なに考えてる?」
「お腹すいた」
「俺に嘘付くのか」
「分かってるなら言わないで」
「怒った。こりゃ参ったね」

今は何も望まないわ。
絡めた指に力を入れれば握り返してくれる。
そんな日常でいい。
クザンの非日常的日常を笑い飛ばすだけで。

「クッキーと紅茶な気分ね」
「はいはい、随分と我が儘だなぁ」




ベッドで哲学の話なんて不釣り合いだろう?
裸で跨がるならヒールを脱いでから
飴をばら蒔き印を付ける女じゃない筈だ
そして煩いベルを鳴り止ませてくれないか
誰かが部屋に入ってくる前に…早く



―――
天気予報の通り今日は雨。
天気予報の通り明日も雨だろう。

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