Lollipop


□恋が加速した
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「付いて来ないで!」
「生憎、俺もこっちなの」
「…嘘っぱち」
「本当お前は可愛くねェな」
「―ッ」

そんな事…分かってる。くだらない口喧嘩で私がムキになって取り返しがつかなくなるんだ。受け流せるほど大人になれない 、ましてや謝るなんて… ヒールをアスファルトに甲高く打ち付け少しでも離れようと躍起になった。クザンの長い脚が一歩進む間に私は約3歩。何故か今日は5歩ぐらいに感じる。ヒールの高さが原因かもしれない。

「エマ、あまり歩き回るなよ」
「放っといて」
「なあに、ヒステリックだね」
「だから家に帰るの!」
「まぁ、それも悪くないか…」
「クザンは来ないで」

吐き捨てた私は振り返らず勢いよく走った。人混みに紛れてしまえばクザンは面倒になり諦めるのを知っていたから。それを願って限界まで痛む脚を路地に向けた。 跳ねる鼓動が煩く気付くのが遅れたが、薄暗い先でクツクツと乾燥した笑いが聞こえる。得体の知れない恐怖に後退りして、

カツン―
とヒールが響いた。
と同時に笑いが止まる。







「だ…誰なの」

湿った壁に指を添えて、少しだけ前に身体を傾けた。


「こらこら!戻りなさい」
「きゃぁ―!!」

後ろから腕を掴んで路地から引き摺り出したのはクザンだった 。腰が抜けて座り込む私を仁王立ちで見下ろす顔は影を作り見えない。

「エマ、こんな時は―」
「…ありがと」
「あらら?違うわ」
「な、なに」
「謝罪は鮮度が命だろ、」

クザンは意外と律儀で順序にこだわる。
普通なら逆だろうに…

「ごめんなさい」
「ん。まったく、歩き回るから」

溜め息混じりに腕を持ち上げ私の頭に置かれた。視線が同じ高さで絡み合えばクザンの指が踵を滑る。ゆっくりと脱がされた足には靴擦れで血が滲んでいた。

人指し指が私の唇に近付いて離れ、そのままクザンの口に吸い込まれた。覗く肉厚の舌がいやらしく蠢き、
恋が助走する。

「痛むか?」
「もぅ何処が痛いか分からない」

クザンの唾液で艶やかな光沢を放つ指 、それが傷の廻りを撫ぜてピリリと走る痛み。薄く広がったカラーで、
恋が加速した。

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