Lollipop


□アナーキズム
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最近の俺はどうも調子外れだ。今にも暴かれてしまいそうなタネは観客に向いている。
クザンにとってエマは不快な存在である筈なのに。そう言わなければならないのはクザンが自分自身に嘘を付いている事になるから。それでもキミに惹かれている。俺は自分自身に嘘を付かない。

クザンはクザンの巨大な愛しか必要なかった。愛でる以前に壊れる、育てては朽ちる、これがクザンの知る世界だから。

「キミの名を呼ぶ度、俺は…」
「うん」
「自問自答に思えて仕様がないんだ」

まるで欲望に飢えた獣みたく貪りたくなる。邪な芽がムクムクと育ち、悪知恵を孕むのを感じるんだ。乳白色の粘液は一体?ゼリーより柔らかく涙ほど清潔ではないソレ。熱にほだされ巡り巡って下腹に渦を巻いてゆく白濁の正体を理解してしまいたい。

「愛してる、」
「やめて、嘘」
「あぁ、嘘だ」
「…」
「拗ねるなよ?嘘だから、」

本当は全て理解している。肉塊が波打ちながら踊り狂う。血脈が波打ちながら踊り狂う。生温い膚は生を実感し、事切れる時を只待つシグナル。時限爆弾がカウントダウンを続けている。誰にも止められない。クザンも然り。
エマ、キミは美しいよ。凛と強く酷く汚い姿は高揚感に導かれる。地べたを這いずって愛を手に入れようと必死な姿は心打たれる。だけど必死すぎて目の前のソレに気付けないんだ。鼻を鳴らせば理解できる、腐臭にまみれ血生臭い激情を。意識とは別の場所で漂っているのが知れるだろう。ほら…キミと俺は…

「ねぇ、何してるの」
「…何って、エマの膚を嗅いでるんだろ」
「離して!」
「そう興奮するなよ、臭いが濁る」

嗚呼、この忌々しい腐臭が俺を狂わせた。クザンがクザンなる存在を貪る様に、女が男に嘔吐をした様に、男が女が男が!クザンがエマが!それぞれが踏み込んだ混濁は秩序を失い溶けはじめ、雪崩を起こす。誰も止められない迄に暴走した性と性。ドッペルゲンガーに陥った一人と一人。

「イカれてるわ」
「やっと認めた?」
「異常なのはクザンよ、」
「ッ、ククッ…」
「自分が可笑しいわけ?」
「いや、エマがね、俺とエマは同じだろう?はじめから同じなんだ、お前は認めるのが厭みたいだけど…俺がお前じゃ厭だってさ、」
「違う」
「違う」
「やめてよ!」
「やめてよ、」
「いい加減にしないと、」
「殺すよ…って?」
「ッ……クザン」
「なぁに」

クザンはクザンの巨大な愛しか必要なかった。愛でる以前に壊れる、育てては朽ちる、これがクザンの世界だから。キミはキミをよく理解しているじゃないか。早く俺を見たらよかったんだ、焦れったいよ。
男で女でクザンでエマで…

「下腹が疼くだろ、臍の奥から腐った臭いがプンプンするね」

キミが欲情すれば俺に伝わる。
何も隠せない、偽れないんだ。

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