海軍・海賊


□歪んだ愛の定義
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いつも欲が尽きない男
いつも自分に素直な男
いつも自由を求める男

いつも私を振り回す男


だから私も自由にしていた、貴方が構ってくれない淋しさを違う人に求めた。優しくて素敵な男性と一緒の所を見ても得に気にかける様子もなかったくせに。昨日私は風の噂でドフラミンゴが北の地に現れたと聞いたのに…今ここで不機嫌そうに足を揺すっているのに理解が出来なかった。



「なぁ名無しさん、今なら言い訳ぐらいは聞いてやるぜ?」

「別に…貴方と同じよ」

互いに都合のいい関係をしていただけだ。それはドフラミンゴが私との間にあるそれと何一つ違わないじゃない。今更になって責められても分からないわよ。


「生意気が過ぎんぞ、あァ?」

持っていた酒瓶をテーブルの角に叩き付けて粉々にされた。弾けた琥珀色の液体が跳ねて私の顔にまで付着する。己の手を長い舌が舐め上げる様は狂気に映り背筋が粟立つ。アルコールのツンとした馨が脳を酔わしてゆくが全てを忘れさせてはくれない。


「ドフラミンゴの勝手は許されるの?」

「フッフッフ!お前には仕置きが必要みてェだなァ」

「なら愛してよ…」

浅はかな事を言ってしまい後悔した。この男に愛だの恋しいだの存在しない、あっても人並み外れた捩曲がっている感情なのだ。ドフラミンゴは口元を気味悪い程に吊り上げて耳障りな声で笑い始めた。どこまでも苦しめる終わりを認めない男がお腹を抱えて笑い転げている限り。

「愛してんだろ?勘違いすんな」

「私だけを見て欲しい」

「名無しさん、名無しさん名無しさん。愛してるぜ」

子供でも言える言葉なんて望んでない。分かっていて吐き出す悪魔は乱暴な動作で隣に座ってきた。膝を掌がリズミカルに叩いて何故か機嫌が宜しいドフラミンゴは鼻唄まで披露してくれた。顔を覗き込まれ重ねられた唇は酷く優しい。

「そんなに好き?惨めな私が…」

「馬鹿だな名無しさんは、フッフッフ!早くこっち来いよ」

腰に回された片腕で楽々と私を膝に乗せる。向かい合った態勢で顔を背けると顎を掴まれ鼻筋を舌先でベロリとなぞられた。どこでも舐めるのは前から変わらない。抱き寄せられると男のくせに凄くいい馨を放つドフラミンゴに嫉妬して肩に噛み付いた。





「くれてやるよ名無しさん」

「貴方を?」

「あぁ、好きなだけ持ってけ。フッフッ」

肉体なら簡単に差し出すのね、やっぱり貴方は常識を跳ね返す答えを導き出す。


「欲しいけど…愛が欲しいの」

「なぁ、何が違う?結局は一緒だろ」



確かに。的外れだと思っていても正しい事なんて一つじゃないのね。それがドフラミンゴの思う愛の表現なら間違いではなくなる、捉え方なのか。


「くれてやる、名無しさんになら心臓だって」

「意地悪ね、ドフラミンゴが居ないと私は駄目なの知ってて」

「えぐり出せ、欲しくなったら好きに」




押さえ付けるでもなく締め上げるでもないドフラミンゴの指が首に巻き付く。少しでも力を入れれば私は玩具のように壊れるだろう。それでも貴方の一部を私の好きにしていいと笑うドフラミンゴに刹那の狂気が脳を掠めた…

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