海軍・海賊


□ひとつ上の関係
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貴方は覚えているだろうか、私と出会って今までの月日の流れを。申し訳ないけど私は曖昧で何も思い出せないの。それって悲しいけど何故か自然な事に感じていた。




「名無しさん待たせたな」

この時から既に違和感があった。胸に突っ返る鼓動の波は一方的に押し寄せるばかりで、恐怖に近く焦燥とも違うモノが絡んでいる。

「フッフッフ、なんだ?黙りこくって」
「だって珍しい事言うから」
「…あぁ、気まぐれだ」

オレンジの淡いライトに照らされた横顔は柔らかな表情を見せている。私の隣に座るのはドフラミンゴの皮を被った別人なのかと覗く皮膚を見渡す。が…そこまでして考えるのを止めた、有り得ないだろうと自問自答をして気まぐれと言った言葉を受け入れた。

「くだらねぇ事に頭使いやがる」
「ふふ、私も思う」
「行くぞ名無しさん、時間なくなるぜ?」



連れてこられたのはドフラミンゴの顧客である男が経営する劇場。群がってくる人間を片手であしらいながらドフラミンゴは自分の為に用意された個室のソファーに座る。だらしなく投げ出された足に踏ん反り返る上半身。私が隣に腰を降ろせばグラスを渡されたので一口だけ含む。広がったのは果実の馨と弾けるアルコール。

「しかし退屈だ」
「まだ始まってないのに大丈夫?」
「フッフッフ!さぁな」

大きな口で欠伸をすると腕を組み寝る体制に入ってしまうドフラミンゴを小突いた。


「連れて来たくせに寝るなんて…」
「俺がもらう」
「なに寝ぼけてるの」
「いや、名無しさんは俺がもらう」

薄暗い会場で貪欲に光を反射してるサングラスが私を捉える。今日の違和感が再び蘇りドフラミンゴが虚像でなかったのだと確信した。

「この距離感を手放すの?」
「そりャお前次第だろ、フフフッ」
「いい関係だと思ってたわ」
「俺は焦れったくて仕方ないぜ?」

素肌の触れ合いは初めてに近かった。ただ手を重ね握られた行為に熱が伝わり跳ねた肩をドフラミンゴが見つめる。と同時に開演の合図で役者が舞台に上がった。




「これは夢なの?」

芝居の内容なんて留まる事なく抜けてゆく中で呟いた僅かな音は私自身ですら聞こえない言葉だったのに。唇に乗せたルージュをドフラミンゴの親指が拭き取り己に塗り付けた。





夢の夢だ名無しさん…
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