海軍・海賊


□野良猫/拘束
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金で与えられる物なら何でも言え。

お前が望む全てをくれてやる。野良猫は拘束を嫌う。鈴を付けた首輪なんざ巻き付ければ威嚇して爪を剥き出しにする。そうなったら二度と俺に懐かない、気儘で自由を求める名無しさん。そんなお前だから力で抑えるなんてしない。
今日も俺の仕事が終わる僅か1時間程度すら大人しくホテルに留まれない女は、施錠を壊す事なく見事に脱走した。抜け殻となった部屋を見渡し口角が吊り上がった。テーブルに置かれた瑞々しいフルーツを噛み砕き名無しさんを迎えに行く為ホテルを出た。

街の中心部にある広場の噴水に魅せられている名無しさんを見つけた。縁に腰を降ろして脚を入れながら噴き出す水に夢中だ。ドフラミンゴが真後ろに立っても気付いていない。

「ホテルのプールじゃ、ご不満かよ」
「あ…もう終わったの?」
「あぁ」
「もう少しだけ此処にいたい」

普段なら迎えに行けば素直に帰る名無しさんが珍しく来たがらなかった。さも俺と一緒が嫌だと言われた気がして苛立ちが募る。乱暴に名無しさんの肩を掴み前に押せば両手を水底に付いてずぶ濡れになった。込み上げる笑いを掌で隠した、野良猫はドフラミンゴを睨み付けるでもなく見上げた。濡れた前髪をかき揚げてやると指に張り付く細い毛束。

「帰るぞ名無しさん」
「ドフラミンゴって意地悪よね」
「フッフッ!聞き分けないテメェのせいだろ」

腕を掴み引き上げると水を含んだ名無しさんは僅かに重さが増している。さっさと先をゆくドフラミンゴを水溜まりを残しながら名無しさんは追いかけた。脱いでいたサンダルはピンクの後ろ姿の男が持って行ってしまった。裸足で歩くのに慣れていない足は小さな小石でも痛みを与え、皮膚に食い込んできた。帰る場所は分かっている為、必死になって追いかける必要もなかった。道端に座り痛みを和らげる。ドフラミンゴは振り返らない。立ち止まった事も分かっているが声を掛けるなんてしてくれなかった。段々と小さくなる巨体が霞んで見える。

「もう歩けない…」
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