海軍・海賊


□砂糖
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時代錯誤な酒場。
照明の行き届かない席では見知らぬ女のすすり泣く声が不気味に反響している。腰を降ろしたカウンターの椅子は甲高い悲鳴を奏でる。グラスに映り込むのは惨めな過去の色だった。何もかもが気に入らない…そんな今。薄められたチープな酒のせいにしたかったのかもしれない。悪趣味にも程がある。

「名無しさんは独占か服従、どっちがいい?」
「同じような言葉ね」
「決して交わらねェよ」
「ふふ、貴方が言うと恐ろしいわ」


なぁ何が可笑しい?何が愉しい?何が…
名無しさんの伏せた睫毛が影を落とした。男とは根本的に造りが違う滑らかな肌に指を滑らせると握り潰してやりたくなる。泣きじゃくり眉を歪めているのを間近で見ながら噛み殺してしまいたくなる。程好い弾力と吸い付く膚が安易に想像出来た。噎せ返る熱気が興奮を後押しする。吊り上がる口角は隠しようもなく欲に忠実だった。

「俺は選べねェぜ?フフフ」
「そうね」
「あぁ…歯痒くて仕方ねェ」
「ドフラミンゴの歯すごく痛そう」

試すのも悪くないが勿体無く感じた。ザラつく砂糖を口一杯に詰め込まれれば甘ったるく吐き出すだろう。だが名無しさんの砂糖は下品な蜜とは違い噛み付けば滲む血液すら濃厚なソレに変わる。獣の本能に駆られ欲してしまう程の危険な媚薬。

それを意識的に止める、理性が繋がっている内に。


「残念だが期待には答えられねェ」
「珍しい…欲に素直な男が」
「フッフッフッ!」
「やっぱり恐ろしい人」


失うと分かっていた物は容赦なく切り離してきたじゃないか。テリトリーにすら寄せ付けなかったじゃないか。それが何て様だ、欲しくて欲しくて仕様がない餓鬼が如く名無しさんを独占し服従させたい自分がいる。食べ頃な魅力を放つ彼女の果実は目眩がする…視線で愛でる独占欲、振り撒く薫りを愛でる服従欲は贅沢だろう。

どうやら俺は砂糖に蝕まれた気違いな一人。
時に人は錯覚する、甘い誘惑を。

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